コンストラクション・マネジメント 株式会社プラスPM

#02豊かさの本質を見つめる

医療界の再編時代の
課題を探る

  • 元厚生労働省 健康局長
    久留米大学
    特命教授
    佐藤敏信
  • ×
  • 株式会社プラスPM
    代表取締役社長

    木村 讓二
佐藤敏信×木村 讓二

人口減少や社会保障の財源不足など病院経営に逆風が吹くなか、健全な医療システムの構築に向けて医療施設の再編統合の動きが高まっています。それに伴い、新病院の建設の機会が増えることが予測されます。今回は、医師であり長年にわたり厚生労働省で医療政策に携わってきた佐藤敏信氏と、多くの新病院建設にCMとして関わっている当社社長木村讓二が、これからの病院経営について意見を交わしました。

Profile

久留米大学
特命教授
佐藤敏信

1983年山口大学医学部卒業。同年厚生省入省。大分県環境保健部健康対策課長、岩手県保健福祉部部長、厚生労働省雇用均等児童家庭局母子保健課長、同省医政局指導課長などを経て、2008年に同省保険局医療課長、2010年に環境省総合環境政策局環境保健部長、2013年に厚生労働省健康局長を歴任。2017年より久留米大学特命教授。

久留米大学 特命教授 佐藤敏信
×

株式会社プラスPM
代表取締役社長
木村讓二

1986年 設計事務所としてプラスPM創業。1997年にプロジェクト全般に関わることを目的にCM会社へ転換。発注者目線、経営者目線でプロジェクトを推進することを理念に掲げる独立系CM会社であり、施設運営に踏み込んだマネジメントを強みとしている。また、京セラ創業者の稲盛和夫氏から20年超にわたり、フィロソフィーを学び人財育成に活かしている。2013年、マレーシアにPlus PM Consultant Sdn.Bhdを創業。アセアン諸国と、東ヨーロッパのプロジェクトを手掛ける。

株式会社プラスPM 代表取締役社長 木村 讓二

多角的な調整が欠かせない「地域医療構想」

木村生産労働人口の減少と高齢化、さらに経済の低成長が続き、病院経営は厳しい環境に置かれています。国が主導する「地域医療構想」によって医療機関の再編統合が進もうとしていますが、公立病院、民間病院共に各々の抱える事情があり、簡単なことではないように思います。佐藤さんは、厚生労働省で医療政策に深く関わって来られましたが、地域医療構想は今後、どのように進んでいくとお考えでしょうか?

佐藤様 ※以下、敬称略
地域医療構想は、2025年に必要となる病床の数を区域ごとに「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」「慢性期機能」の4つの医療機能に分けて推計し、地域の状況に応じた病床の機能分化と連携を推進する取り組みです。

コロナウイルス感染症の影響下にある現在は少し状況が変わっているかもしれませんが、地域医療構想は長期的に見れば必ず進めていかなければならないものだと思います。

木村当社は日頃から自治体の公立病院の仕事に携わっていますが、多くは財政的にゆとりのあった高度成長期に開設した病院で、ゆとりある建築面積に、あらゆる診療科目に対応することを方針としています。

今では多くの公立病院は収益性が下がり、何らかの改革が必要に迫られているように思います。

佐藤そうですね。地域医療構想の話と公立病院の課題は、相互に関連する部分はありながら、独立して動いている面もあります。例えて言えば、「厚生労働省と財務省が作った地域医療構想という大きなバスに、元々あった公立病院の統合や経営改善という"乗客"が乗り込んできて、同じ方向へ進もうとしている」という関係でしょうか。


木村なるほど。私が仕事で直面した難しさは、ある地域で実際に公立病院を再編しようとなったときに、住民の意向が関係してくることです。

佐藤よくある「総論賛成、各論反対」ということでしょう。無駄は削減すべきだけれども、「病院が遠くなるのは困る」という理由から、再編によって自分たちの地域の病院がなくなることには反対する。現地建て替えではなく、第三地点へ移転して新しい病院を建設するようなことになり、結局はコスト高になってしまうこともありますね。

また、公立病院に限りませんが、外科はA医科大学、内科はB大学医学部...と診療科ごとに母体となる大学が異なることがあり、その母体ごとに医師派遣についての考え方も微妙に異なるようです。

このように、病院の再編・統合には複雑な背景がありますから、医療、経営、政治や地域の実情などを多角的に、トータルに考えることのできるリーダーの存在が求められます。

木村一方で再編統合に対して、国は強制力を持ちません。再編統合をスムーズに進めるには、「アメ」になるような助成金などはあるのでしょうか?

佐藤「アメ」として、厚生労働省は都道府県が地域医療再生計画で定めた事業を対象として「地域医療再生基金」を設けています。また、総務省では、新公立病院改革プランに基づき行われる公立病院等の再編・ネットワーク化に係る施設・設備の整備について、病院事業債(特別分)の措置を講じています。一方、国はこれまであまり「ムチ」をふるって来ませんでした。ところが、2019年の秋に厚生労働省が、再編統合について特に議論が必要な公立、公的病院のリストを公表して、大きな波紋を呼びました。ただこれも今は、コロナ禍の影響でやや足踏み状態になっています。

木村地域医療構想をスムーズに動かす方法の一つとして、「地域医療連携推進法人」の活用があると思いますが、この制度についてはどのように思われますか?

佐藤地域医療構想は、一般の産業の場合で言うと、「分業」で進めていこうというものです。高度急性期や急性期と、回復期や慢性期では、必要なスタッフも機器も同じではないので、医療機関による分業で提供した方が効率的・効果的なのではないかという考え方です。

ただし、分業が進むほど、相互の連携が必須になってきます。そこで、通常は「共同指導」という形で連携を図ります。例えば「退院時共同指導」なら、病院を退院するときに、次に受診する病院や診療所とカンファレンスを行い、入院中にその患者さんが受けた治療内容や経過を伝えるとともに、その後の治療方針を相談します。


地域医療連携推進法人は、こうした連携をさらに充実させ、個々の患者さんの治療方針だけでなく、そもそもの医療の提供や経営のあり方などにまで踏み込んだ協力体制を構築する仕組みです。

木村とはいえ、その実現は一筋縄ではいかず、強力なリーダーシップと、利害関係を調整する能力が必要ということですね。

佐藤おっしゃるとおりです。公立病院が絡むのであれば、人事権や財源の問題も含めた首長さんや議会のご理解が欠かせませんし、民間の医療法人の理事長のお考えとの整合性も重要でしょう。細かいところでは「どうしたら医師や医療従事者のモチベーションが高まるか」といった配慮も必要でしょう。

木村そのように、全体を見て改革を進めることができるのは、どのような立場の人でしょうか。

佐藤私も現時点で明確な答えを持ち合わせていません。と申しますのも、公共サービスでもある医療分野の運営・経営については、まだ科学的・学問的なバックグラウンドが十分ではないように思えるからです。つまり一人で全体を見て判断できるような人材はなかなかいないのです。

補足しておきますと、日本では、高度成長期までは「目の前の患者さんの治療に真面目に専念していれば、お金は後からついてくる」という時代だったので、病院は経営の分析・評価にそれほど注力しなくてもよかった。しかし、経済が長期に低迷し、人口が減少し始めている今こそ、筋肉質の持続可能な経営体質への転換が求められています。

一方で厚生労働省も、地域医療構想で医療機関間の分業を進めようとしている割には、職種間の分業にはあまり目を向けてこなかったようです。外科医を例に取りますと、「外科医が手術に従事している場面では付加価値を生んでいるが、それ以外の書類記入などの時間はそうでもない」との視点が長く欠落していたのです。医師に限りません。看護師についても「看護師らしく働いてもらうためにはどうすればいいか」という発想が行政の側にも病院の側にもありませんでした。最近になって、ようやく医師事務補助者、看護補助者の配置が診療報酬上評価されるようになりました。

木村アメリカの病院院長から聞いて驚いたのですが、心臓カテーテル手術の専門医はそれしか施術しないそうですね。専門医は手術の実績がどんどん増えるから腕が上がるし、支払いにもインセンティブがつきます。術後の病棟を担当する医師はまったく別の職種で、施設内の動線計画も徹底しており、日本とはレベルが違うと感じました。

佐藤「腕のいい外科医には手術に集中してもらう」という分業の方針が徹底しているのですね。日本でもそこまでいけば、地域医療構想もうまくいくでしょう。

後期高齢者の激増前にギリギリ間に合った財源確保

木村佐藤さんの著書『THE 中医協』を拝読しましたが、政治と省庁の関係や中央と地方自治との関係など、多くの気づきがありました。同書の中で、社会保障の給付と国民の負担のバランスを適正化するには、①経済成長 ②給付の伸びの抑制 ③財源確保 の三つの組合せが重要であると説明されていますね。

佐藤小泉政権下で、「規制を緩和すれば、民間の自由な発想によって活力が生まれ、結果として増税や給付抑制をしなくとも自然に税収や保険料が増えるはずだ」と主張するグループがありました。

一方で財務省は、「こうした考えに沿って規制や無駄の排除に努めたにもかかわらず、予想したようには経済成長が進まない以上、給付抑制と国民の負担増は避けられない。」と考えています。

そもそも日本はヨーロッパ諸国に比べて国民負担率が低く、その少ない税収のほとんどを社会保障費に充ててきました。その結果、インフラの維持管理や高等教育に十分な国費がかけられない状況にまで陥っている。つまり社会保障のせいで、他の必要な施策が実行できないのです。

しかし、国民に"苦い薬"を飲んでもらうには、政権が強固でないといけません。消費税の創設や増税に関与した政権は軒並み退陣を迫られましたが、戦後唯一の例外が第二次安倍政権でした。


少し古い話になりますが、厚生省と大蔵省が足並みを揃えて実現した介護保険制度もありますね。税金で言えば「目的税」のように、高齢者介護のための財源に特化した保険としたことで、国民からの反対は非常に小さかったと記憶しています。補足しておきますと、これは当時問題となっていた、医療の提供はほぼ終了しているにもかかわらず、寝たきりの状態にあったり、退院する先のメドが立たなかったりするために、入院を継続せざるを得ないいわゆる「社会的入院」の解決のためのものと言っていいでしょう。医療保険の給付の対象から切り離し、介護保険という別の財源を設けて、その対象へと移行させたのです。

ともあれ、日本人の寿命が延びて長生きするようになった今、団塊の世代が後期高齢者に突入するギリギリのタイミングで、新しい時代に向けた制度設計がなんとか間に合った、というところではないでしょうか。ただし、年金が「マクロスライド」といって物価に連動して給付額を増減させる制度になっているのに対し、医療は経済状況に合わせて水準を上下させられませんから、この点は楽観できないと思っています。

木村当社はおよそ20年前から新病院建設のプロジェクトにコンストラクション・マネジメントとして関わっていますが、最近特に、多くの病院の収益がダウンしていると感じます。佐藤さんは、久留米大学病院でDPC(診療群分類包括評価)の2000項目について収益率の視点から分析をされたそうですが、病院が収益改善する方法についてどう見ていますか?

佐藤先ほども出ましたが、「アメ」に相当する補助金や交付金はあまり期待できません。したがって、診療報酬だけで病院を経営することを考えなければいけません。そうなるとまずは、採算性のある部門・領域とそうでないところを明確にすることが重要です。DPCが2000項目もあるというのは、他の財やサービスで言えば「多品種少量生産」であることを意味します。多品種の中に売れ筋とそうでない商品があるように、診療においても利益率の高いものとそうでないものがあります。大きな病院の場合は、利益率が低くても「品揃え」のような意味で行わなければいけない診療ももちろんありますが、それでも、例えばDPCの項目ごとに利益率の高さ、低さをきちんと分析しておくことは欠かせません。

実際に分析してみますと、診療報酬点数の設定に当たって、意図的に高い評価をしてくれている診療行為とそうでないものがあることが分かります。具体的には、長期の入院が必要な診療行為の利益率は低く、外来や、入院しても短期ですむような診療行為は高いのです。そうした診療行為を見極め、利益率の高い診療行為の比重を高めていくことが重要です。

最近はGIS(地理情報システム)で、患者がどこから来院したかも可視化することができます。医療計画は二次医療圏単位で立案されていますが、患者は圏外から来院する場合もある。自院の医療圏の人口が減少するとしても、広域から患者を集めることはできますから、そのためにどんな診療行為を充実させていくのかも考えるべきでしょう。


木村しかし、全国の病院が収益の上がる診療に特化しても困るのでは?

佐藤もちろんそうです。特に、大学病院や国公立病院は、医師などの医療従事者の教育の目的もありますし、その地域の医療の"最後の砦"でもありますからね。ただ、どんな企業でも経営状況がしっかりしてこそ社会に貢献できる商品やサービスが提供できるように、病院もまずはしっかりと利益を上げる体質をつくることが先決ではないかと思います。先ほどのDPCで言えば、「全国の平均よりも少し頑張れば利益が出る」ように点数が設定されていますから、それほど難しいことではないはずです。

病院施設の「可変性」が生き残りの切り札に

木村当社が新病院建設に携わるなかで意識していることの一つは「将来の可変性をもつ病院建築」です。例えば柱の配置、壁の構造体を工夫してプランの変更ができるようにする、また、多床室を個室へスムーズに転換ができるように設備配管を配慮するなどの助言をしています。

佐藤それは大変重要な視点ですね。医療は通常の財やサービスとは違い、単価と供給量が市場で決まるわけではありません。DPCや出来高の診療報酬点数は原則として全国一律ですし、医師の数などの供給量は医学部の入学定員で、病床数などの供給量は医療計画・地域医療構想でコントロールされています。そうなると、経費の節減はあるとしても、本筋は「品質を上げる」ことになるでしょう。これを具体的に言えば、手術の成功率や院内感染の率を低下させるなどになるのでしょうが、実は周辺の医療機関の診療実態や患者の動向などの環境の変化に、素早く対応することも重要です。施設の可変性はまさに、その部分に直結するものだと思います。環境が変化しても病院が生き残るには、それに迅速に対応できる能力が重要です。通常、建物やその内部の構造は簡単に変えることができませんから、構造や機能を自由に変えられるのは素晴らしいことだと思います。

木村もう一つ、当社が注目しているのはDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。菅内閣はデジタル庁の創設を掲げており、建築の世界でも一部ではAI やロボットによる生産が始まっています。病院運営において、DXはどの程度進んでいますか?

佐藤多少は取り入れられてきていますが、まだまだ「進んでいる」とは言えない状況です。公立病院の経営改善がなかなか進まないのと、根底は同じかもしれません。大学病院や国公立を始め、非効率な事務処理の習慣が残っています。人力に頼ってきたそうした処理をそのままDXに乗せればいいということでもなさそうです。まずは業務の洗い出しを行い、DXにうまく乗っかるような記録方法、処理方法に改めることから始めないと難しいようです。

木村企業もそうですが、病院経営でも最も重要なことは「持続性」であり、それが結局は患者さんのためでもありますね。今日は医療行政について大変参考になるお話をいただき、ありがとうございました。


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