#05豊かさの本質を見つめる

スタートアップを支えてこの国を豊かにする。
Chatwork創業者が見たシリコンバレーと起業家たち。

  • SEVEN Founder
    (Chatwork創業者)
    山本敏行
  • ×
  • 株式会社プラスPM
    代表取締役社長
    木村 讓二
山本敏行×木村 讓二

より豊かに働くためには、ときに慣れ親しんだルールを見直すことも大切です。業務効率を上げて生産性を向上させるために、ビジネスチャットツールを導入する企業が増えています。今回のゲストは、日本企業として欧米に先駆けてビジネスチャットツール「 Chatwork(チャットワーク)」の提供を開始し、現在は投資家として若手起業家を支援する山本 敏行氏に、 Chatwork創業の経緯や、シリコンバレーの魅力、そして「豊かさ」について伺いました。

Profile

SEVEN Founder
(Chatwork創業者)
山本敏行

1979年3月21日、大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスでEC studio(2012年にChatwork株式会社に社名変更)を創業。2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身が移住して5年間経営した後に帰国。2018年Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年東証マザーズへ550億円超の時価総額で上場。 現在はエンジェル投資家&スタートアップ起業家コミュニティの「SEVEN」に注力している。

<br> SEVEN Founder(Chatwork創業者) 山本敏行
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株式会社プラスPM
代表取締役社長
木村讓二

1986年 設計事務所としてプラスPM創業。1997年にプロジェクト全般に関わることを目的にCM会社へ転換。京セラ創業者の稲盛和夫氏から20年超にわたり、フィロソフィーを学び、発注者目線、経営者目線で仕事ができる社員を育てることをライフワークにしている。2013年、マレーシアにPlus PM Consultant Sdn.Bhdを創業。仕事の合間に、国内外へ旅に出かけ、自然の中で過ごすことを楽しみにしている。

株式会社プラスPM 代表取締役社長 木村 讓二

法人用ビジネスチャットツールで、いち早く業務効率化に取り組む

木村山本さんとは、今から20年ほど前に大阪の吹田市にあるビジネススクールで共に学んだ仲です。当時、私はプラスPMを東京に進出させたばかりで、会社を成長させるために更に学ばなければという思いでビジネススクールに入学しました。

山本様 ※以下、敬称略
当時はまだChatworkも存在していない頃でした。私は高校時代にインターネットに出会ってその魅力に惹かれ、大学3年のときに1年間休学してロサンゼルスに渡りました。その年がちょうど2000年でドットコムバブルの最盛期です。そこで、ロサンゼルスから日本企業向けにホームページの売り上げ支援サービスを開始しました。帰国後は大阪で父親の会社を手伝いながら自分の事業も掛け持ちし、3〜4年で順調に成長したので法人化しました(株式会社EC studio。2012年4月にサービス名と合わせてChatwork 株式会社に社名変更)。その際に、「これからは経営の勉強も必要だ!」と思って入学したビジネススクールで木村社長に出会いました。

木村あの頃はお互いにまだ若くて情熱に溢れていましたね。
山本さんといえば、やはりChatworkの創業者という印象が強いと思いますが、現在はエンジェル投資家として後進の育成に注力されています。まずは、どういった経緯でビジネスチャットのサービスを始めたのかお聞かせいただけますか?

山本先程も少し触れたように、当初展開していたのはホームページの売り上げ支援サービスでした。しかし、競合他社も増えてくる中で、次にやるべきは売り上げ支援ではなく、業務効率化だと思ったのです。今でこそ「働き方改革」や「DX」なんて言葉が当たり前に使われていますが、当時は長時間労働なんて当たり前で、業務効率化といってもピンと来ない人がほとんどでした。

手始めに、動画を使った業務効率化のソフトやマインドマップのソフトなどの販売代行を始めましたが、他社のサービスを売るだけでは物足りなさを感じていました。そんな中、当時活用していたスカイプチャットに目を付けました。その頃はまだ、個人向けのサービスしか無くて、法人向けのビジネスチャットを作れば業務効率化につながると気づいたのです。当時はまだLINEもSlackもなくて、法人向けのビジネスチャットを展開する企業は世界にたった1社。それも、まだ価値を認められずに無名な状態でした。2010年のことです。

木村御社がChatwork を作ってくれていなかったら、我社は回りません。うちもいち早くChatwork を導入しましたが、おかげさまで業務効率化につながっています。

山本日本のメールはとにかく長いですよね。本題に入る前にいろんな前置きが必要です。メールそのものを簡潔にしようという動きもありますが、そうすると「あの人は失礼だ!」と受け取る人も出てきます。つまり、チャットというカルチャーそのものを広める必要があったんです。

当時、日本企業はシリコンバレーに行ってもまるで戦えていない様子でした。そこで、うちのサービスはグローバル展開するぞという意気込みで家族を連れてアメリカに渡り、ナスダック上場を目指して様々なピッチコンテストに挑みました。すぐに巨額の投資話も出てきましたが、シリコンバレーですらまだビジネスチャットの重要性は認識されておらず、ユーザーが伸びなくて苦戦しました。日本と違って、アメリカには既に簡潔なメール文化があったというのも障害のひとつでした。そうこうしているうちにSlackが誕生し、さらにはMicrosoftがTeamsを始めるという話を聞きつけました。

そこで、一旦ナスダック上場を目指すことをやめて、日本でマザーズに上場しました。

チームになって若い起業家を育成することが、この国の豊かさにつながる

木村実際に渡米されてアメリカの市場を狙っていたわけですが、シリコンバレーと日本の違いはどんなところにあるのでしょうか。

山本考え方が全く違います。一度日本の考え方をリセットするくらいの気持ちでいないとダメです。たとえば、サービスを作って営業してカスタマーサポートをして、というプロセスは一緒なんですが、一つひとつの考え方が全く違うのです。

たとえば営業ひとつ取っても、日本なら「飛び込み営業を3回くらいしてやっと顔を覚えてもらう」とか「ルート営業でぐるぐる回る」ということを今でもやっていますが、アメリカは国土も広いし海外市場もあるわけですから、最初からマーケティングツールが発達しました。

また、名刺交換は最初ではなく最後に行います。最初に名刺を交換しても、その相手とビジネスになるかどうかなんて話を聞いてみないとわからないじゃないですか。ビジネスにならない相手に連絡先を渡しても意味がありませんよね。あとはLinkedInなどもありますので、名刺に対する考え方が全く違います。

ITツールが発達したのも別にITリテラシーが高いというわけではなく、人材が流動的だからです。3年で転職したりクビになったりするのが当たり前の世界なので、顧客情報などのデータを個人が所有していると、その情報を持ったまま他社に転職されてしまいます。会社が情報を保有しておかないとリスクなのです。

インターンもそうですね。日本では就活のネタ作りのようなところがありますが、アメリカは新卒一括採用ではなく通年採用が基本です。そのため、真剣にインターンに取り組んで大学時代に職種を決める必要があります。だから、真剣さの度合いが違います。

木村今、インターンの話も出ましたが、シリコンバレーの若者と日本の若者ではどのように違うのでしょうか。

山本シリコンバレーでは、一番優秀な人は起業家になりますが、日本では、一番優秀な人は大企業に行きますよね。もっとも、シリコンバレーはアメリカの中でもかなり特殊な場所です。ビジネスパーソンのメジャーリーグみたいな場所で、起業熱が伝染します。

そこで、私は現在「高校生ユニコーンプロジェクト」といって、起業したい日本の高校生たちをシリコンバレーの大学に入学させて起業させるプロジェクトを行っています。学生が思いつくビジネスなんてたかが知れています。でも、最初はネットショップでもカフェでも、なんでもいいんです。とりあえず社長として営業利益を出すことを考えさせる。そして、シリコンバレーで、私の知り合いの経営者やキーパーソンにどんどん紹介し、様々な経験をさせます。そこから在学中に未上場で1100億円以上の価値のあるいわゆるユニコーン企業に育てて卒業のタイミングで日本に逆輸入することを目指しています。


木村それはすごいプロジェクトですね!
学生を見るときに、どんな点を評価して人を選んでいるのでしょうか。

山本これは起業家を見抜くときの基準でもあるのですが、ある種のクレイジーさを求めています。強いこだわりやポリシーを持っているかどうか。起業は、ただの良い子、真面目な子では上手くいきません。ある程度のずる賢さも必要です。あとは、起業は1人では出来ませんので、周囲や上の世代に好かれて応援されるタイプかどうかも重要ですね。

木村山本さんが執筆された「投資家と起業家」を拝読し、スタートアップへの投資額が日本と他の国とでまったく違うことに驚きました。GDPに対するVCの投資額を比較すると、中国が0.79%、アメリカが0.4%、一方で日本はわずか0.03%とのこと。この少なさは、日本の経済成長が遅いということにつながっているのでしょうか。

山本つながっていると思います。Appleをはじめ、世界の時価総額トップクラスの企業の多くはベンチャー投資から生まれたスタートアップ企業です。Apple、Amazon、Microsoft、Google、Meta(Facebook)の5社の時価総額を足すと、東証一部を全部足した金額より大きくなります。

木村そうなんですね。山本さんは、投資家として単にお金を出すだけではなく、ビジネスの中で得たノウハウを惜しみなく若い起業家に伝えているのが印象的です。それはなぜでしょうか。

山本日本のスタートアップにおける課題のひとつに、シード期の支援が少ないというのがあります。なぜかというと、起業しても生き残るのはほんの一部の天才だけなので、ベンチャーキャピタルは青田買いのように薄く広くお金を投資します。しかし、それでは中途半端な資金しか持っていない会社ばかりになってどこも成長できません。

一方で、私が支援したスタートアップはすべて成長しています。資金面はもちろんですが、私の経験や人脈も提供してチームのような形で支援をしています。正しい支援があればスタートアップは生き残れるんです。

私は今、SEVENという起業家と投資家のコミュニティを運営しています。毎月7日の午後7時と21日の午後7時に、SEVENが厳選したスタートアップ7社前後がエンジェル投資家に向けてピッチコンテストを行うんです。そこで勝ち抜いた起業家に対して、投資家が支援をします。

起業家だけでなく投資家側も厳選していて、ちゃんと自分で会社を興してビジネスを成功させた人だけが参加できます。というのも、その人の資金だけでなく、経験や人脈もスタートアップからすると価値だからです。本来、起業家と投資家は対等な関係であるべきだと考えています。SEVENでは、いくら資金があっても魅力がない投資家は起業家に選ばれません。そうして集まった経営のプロであり投資家であるメンバーがチームになって、資金面だけでなく経験や人脈も惜しみなく投資して、若い起業家を育てていきます。

木村山本さんはたくさんの企業をご覧になっているかと思いますが、特に印象に残っている若手経営者はいますか。

山本起業家ではありませんが、中小企業の3代目で、あのMicrosoftと提携にこぎつけた人物がいます。彼は、当時アメリカにいた私のもとにインターンに来たのですが、最先端のテクノロジーを学ぶうちにMR(Mixed Reality・複合現実)に強い興味を持ったんです。彼は地方のゼネコンの跡継ぎで、MRを活用すれば建設業界の役に立つと考えました。そして、Microsoftに共同開発を提案したのです。最初は日本の小さな会社と侮っていたMicrosoftも、全力で提案してくる彼に押されて、JALに続く日本企業で2社目となる業務提携を結ぶことに成功しました。強い思いで大企業を動かしたのは素晴らしいと思います。

社員がやりたいことをやらせてあげるのが社員満足度向上の秘訣

木村この対談のテーマは「豊かさの本質を見つめる」ですが、Chatwork は前身のEC studio時代に社員満足度日本一にも何度か選ばれています。当時は山本さんが100%株主で会社のカルチャーを作ってきたかと思いますが、上場する際に、市場から資金調達することへの不安はなかったのでしょうか?

山本当初はありましたね。その頃は「経営陣は社員第一主義、社員はお客様第一主義」を掲げて、社員が働きやすい環境を作っていました。それが2015年頃にSlackなどがすごい勢いで追い上げてきて、資金調達の必要性を感じてきたのです。その際に、株主ってそもそもどういう存在か深く考え直したんです。最初は、「上場したら会社のカルチャーも変えなければいけないのか?」と不安に思ったのですが、「いや待てよ。株主は利益を追求する人だから、経営陣は社員を大事にして、社員がお客様を大事にして、お客様が増えて利益も増えれば、社員第一主義のままでもいいんじゃないか」と考え直しました。

あと、私はChatwork を社会のインフラのようなサービスにしたいと考えていました。そういう会社は、100%私の資本ではなく、たくさんの株主の目が入るくらいにしておかなければいけないんじゃないかという気持ちもありましたね。

木村山本さんは「豊かさの本質」とは何だと考えますか? また、豊かさの本質を手に入れるには企業も個人もある程度リスクを取ってチャレンジする気概が必要ではないかと思うのですが、山本さんはどのように思いますか?

山本EC studio時代の経営理念は「Make Happiness(幸せをつくる)」でした。それは心にゆとりがある状態だと定義して、実現のためには「経済的豊かさ」「時間的ゆとり」「円満な人間関係」の3つの柱が必要だと定義しました。ITを通じてこれらを実現することで、社員もお客様も世界も豊かにするというのが我々の目標でした。

その結果、社員満足度日本一にも選ばれたわけですが、社員の満足度を高めるには、社員がやりたいことをやらせることが一番だと思っています。社員には社員それぞれの人生があって、会社はある意味経営者の人生の一部とも言えます。その中で、それぞれの人生のある一時期を一緒に過ごすんだったら、行き先がちょうど重なっていたら良いですよね。もちろん、みんながみんなやりたいことをやっていたら会社が成り立たなくなってしまうわけですが、仕事の1割でも2割でもやりたいことができるように工夫します。面接の時も「君は自分の人生をどうしたいの?」と必ず聞くようにしていました。それによって社員は自分の人生の目的を考えるようになるし、この会社ならやりがいや生きがいにつながると思うようになります。


一方で、リスクを取るという意味では、起業すればやりたいことができるようになるということを伝えたいです。日本では敷かれたレールを進むことが良しとされる風潮がありますが、私自身、学生時代からはみ出した人生を送ってきました。今も、世の中が認めるルートからははみ出てしまっている子たちがたくさんいるわけですが、そういう子たちに起業家としての道があるということを示したいんです。「君、今のままで全然いいんだよ。むしろ君の未来にはシリコンバレーでユニコーンになれる道だってあるんだよ」と伝えたいですね。

木村ありがとうございます。今日は、日米の違いやシリコンバレーの魅力、そして投資家の目線などについてお伺いすることが出来ました。


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