コンストラクション・マネジメント 株式会社プラスPM

#08豊かさの本質を見つめる

集団の中でも
個人の創造力を発揮する。
日独の違いから考える、これからの異文化コミュニケーション。

  • 東京横浜独逸学園
    事務局長
    クノット・
    カトリン
  • ×
  • 株式会社プラスPM
    代表取締役社長
    木村 讓二
クノット・
カトリン×木村 讓二

日本に東アジア最古のドイツ人学校があることは、一般にはあまり知られていません。今回は、明治37年に開校したドイツ人学校、東京横浜独逸学園(横浜市都筑区)にて事務局長を務めるクノットさんをゲストにお迎えし、ドイツ教育の特徴や、日本人が異文化を理解するときのヒントなどについて伺いました。

Profile

東京横浜独逸学園
事務局長
クノット・
カトリン

1975年ドイツ ミュンヘン生まれ。90年代後半に日本へ渡り約1年間大阪で日本語を学ぶ。その後ベルリン工科大学で経済学を学び、2001年早稲田大学のアジア太平洋研究科に入学。2003年同大学国際関係学修士課程を卒業した。2004年から2007年まで関西にある住友化学・バイエルの合同会社で勤務。その後中国・台湾で中国語を学び、ドイツへ帰国。2014年からは再び日本へ渡り、現在の東京横浜独逸学園の事務局長として勤務。一児の母。

事務局長  クノット・<br>カトリン
×

株式会社プラスPM
代表取締役社長
木村讓二

1986年 設計事務所としてプラスPM創業。1997年にプロジェクト全般に関わることを目的にCM会社へ転換。京セラ創業者の稲盛和夫氏から20年超にわたり、フィロソフィーを学び、発注者目線、経営者目線で仕事ができる社員を育てることをライフワークにしている。2013年、マレーシアにPlus PM Consultant Sdn.Bhdを創業。仕事の合間に、国内外へ旅に出かけ、自然の中で過ごすことを楽しみにしている。

株式会社プラスPM 代表取締役社長 木村 讓二

10歳で進路選択? 早くから自分の道を模索するドイツの教育

木村東京横浜独逸学園は、日本で唯一のドイツ人学校です。
創立の経緯や、どんな生徒たちが在籍されているのかお聞かせいただけますか。

クノット・カトリン様 ※以下、クノット
東京横浜独逸学園は明治37年に横浜で創立しました。当時は現在の所在地とは異なる場所にあり、2度の世界大戦や関東大震災の影響を受けて東京の大森などに移転していた時期もあります。その後、現在の横浜市都筑区に移転しました。
当初は、仕事の関係でドイツから日本に赴任する家庭の子どものための学校として作られました。日本に来たドイツ人と日本人の間に生まれた子どもも多く在籍しています。さらに、最近では両親ともに日本人でも、ドイツが好きな夫婦の子どもなどが入学してくることもあります。

木村ドイツの教育方針とはどういったものなのでしょうか?
日本と大きく違う点があれば教えてください。

クノット例えば、今は子どもたちの多様性に合わせた教育が重視されています。そのため、授業では少人数のグループワークをよく行っています。
この背景には、物事を判断するときの日本人とドイツ人の「集団と個人のバランスの違い」があるのではないでしょうか。例えば、日本人は何かアクションを起こすときに、個人の意思よりも、所属している集団の方針や周囲から逸脱しないことを意識する傾向があると思います。一方、ドイツでは集団のことも意識しつつ、他人に不利益がなければ個人の意思を優先する傾向があります。相手と意見に違いがあったら徹底的に話し合って互いに深く理解し、異なる立場であっても尊重し合う。これは、どの授業でも大切にされているスタンスです。

木村日本人特有の「空気を読む」というものですね。よく分かります。
教育方針だけでなく、進学の仕組みも日本と違うと聞きました。例えば、6歳で日本の小学校にあたる「グルンドシューレ」に入学するところまでは同じですが、10歳までの4年間に次の進路を選ぶとか。しかも、この進路選びは将来の職業に大きく影響すると聞きます。幼いうちに自分の進路を選ぶといっても、日本の子どもたちを見ていると「パイロットになる」とか、曖昧な答えになる印象です。一体どういう仕組みになっているのでしょうか?

クノットドイツは州ごとに教育方針を決めるので、10歳で進路選択をする州としない州があります。私の出身はまさに、大学のような高等教育を目指す学校に進学するか、職人(マイスター)を目指して職業教育を受けるかを10歳で選択する州でした。
高等教育を目指す人が進学する「ギムナジウム」は、学問の内容も高度で、言語も母国語以外に最低2カ国語は学ばないといけません。しかも、カタコトではなく小説を読んで議論できるレベルの言語能力を求められます。
職人を目指す人が進学する学校では一般教養を身につけつつ、目指す職業の専門的な知識を学びます。さらに、16歳からは企業と学校で並行して学んでいきます。1週間企業に行って、1週間学校に行くとか、そういった感じですね。これにより、早い段階で専門的な知識を得られます。この職業教育制度がドイツ経済を支えているものの1つと言えるでしょう。

一方で、早いうちから自分に合った進路を目指すことには、難しい側面もあります。10歳の子どもは親の影響を受けやすいので、本人の意思が尊重されない進路選択をしてしまうケースも多くあります。それもあって、最近は10歳できっぱり進路を選択するのではなく、日本でいうところの5年生、6年生の間は選択した進路が自分に合っているか様子を見て、結果的に別の進路を選ぶこともあります。いわば、進路を選ぶ過渡期ですね。その期間に、教員は子どもたちにどんな才能があるかを見つけて指導します。


木村日本では、行きたい大学や文系・理系を選ぶくらいで、子どもの頃から将来の職業を意識する人は少ないですね。

クノット日本は名前で大学を選ぶ傾向がありますが、ドイツではほとんど聞きません。「このブランドの大学に行きたい」というのではなく、「自分に必要な知識はこれとこれだからこの大学に行く」というスタンスで進路を選びます。知識は自分の財産ですので、大学も会社も自分を軸に、個々に合ったものを選択します。

多様性の理解は「聴くこと」から始まる

木村お話を伺ってきて、日本とドイツの教育や価値観には様々な違いがあることが分かってきました。一方で、「日本人とドイツ人は似ている」と言われることもありますが、実際のところどうなんでしょうか。

クノット先にお話しした「集団と個人のバランス」は似ていないですが、近いところも多いと感じています。例えば、どちらも控えめで真面目な方が多い印象です。あとは、時間を守るとか。ものづくりを得意としているところも近いですね。

木村たしかにそうですね。そうなると、日本人は今後、「集団と個人のバランス」を変えていく必要があるのでしょうか。集団を意識しすぎると決められた枠組みに縛られやすいと思うので、今後、多様性のある社会の中で生きていくには自由な発想が大切になると感じます。

クノット日本人は、実は自由な発想を持っていると思うんです。ただ、「自分の顔」と「周りから見られる顔」の2つの側面を持っていて、それらをシーンによって使い分けている印象です。集団の中では周りに合わせているけれど、ちゃんと自分だけの情熱を持っていて、1人のときにわーっと熱中して開花させます。ただし、日本にいると周囲を気にしがちなので、なかなか発揮できないのかもしれません。「集団の中にいても個人の創造力を発揮する」というのが、今後の課題かもしれませんね。

木村課題の解決に必要なのは、自分の考えを持ちながら、異なる考えの人と議論をしたり、異文化コミュニケーションのスキルを高めるとかでしょうか。独逸学園では、これについてどのように教育していますか?

クノット教育するというよりも、そういう場面を多く作るようにしています。自分と異なる意見があっても顔をしかめるのではなく、「自分とは違うけど、面白いからもっと聴きたい」という姿勢が大切だと思います。日本人はお互いに空気を読もうとしますが、それだと言いたいことが言えなくなってしまう。違う意見を楽しんで、認めることが大切です。

木村なるほど。当社では、毎朝朝礼を行っているのですが、その中にテキストを読んで、一人ずつ意見を発表するプログラムがあります。その際に大切にしているのは、「発表すること」よりも「聴くこと」です。また、月々のミーティングでも当社のフィロソフィーに関する勉強会を行い、それに対する意見を発表していますが、やはり「聴くこと」を大切にしていています。これは、自分とは異なる意見に耳を傾けることで多様性に気づき、それを受け入れることで自分も豊かになると思うからです。

クノットそれはとてもよい試みですね。

言語の壁は実践で乗り越える

木村独逸学園には、家族とともに日本に滞在中の学生たちもたくさんいますよね。学生時代に海外で暮らし、学ぶことによって得るものは多いと思います。
クノットさんは学生時代の留学経験、異国で暮らす経験にはどのようなメリットがあるとお考えですか?

クノットメリットはたくさんあると思いますが、1つあげるとしたら柔軟性が身につくことでしょうか。自分や親の考え方以外にも世界には色々な考え方があって、皆楽しく暮らしているということを経験として学べるため、多様性が身につきます。
私の子どもは3歳で日本の保育所に入りました。7歳までは日本語で教育を受けて、今はこの独逸学園の生徒です。日本人の友だちもドイツ人の友だちもたくさんいて、小さいうちにドイツ語も日本語も自然と覚えました。精神的な発達のためにも、非常によい経験をしたと思います。
たとえ独逸学園に通っていて日本語は学ばずに数年間でドイツに帰るとしても、日本での暮らしから得るものは大きいと思います。高校生くらいになってから子ども1人で留学してホームステイするケースもあると思いますが、それもとてもよい経験になるでしょう。

木村当社にも、日本の高等学校を卒業後、アメリカの大学で建築を学び、世界各国でビジネス経験がある社員がいます。彼は多様性への理解が非常にあって、どんな国籍の人でもすぐに仲良くなれますね。
一方で、日本人につきまとうのが言語の壁です。当社は10年前にマレーシアに進出して以来、社員の語学学習にも力を入れています。多言語を身につける上でおすすめの方法はあるでしょうか?

クノット実は、独逸学園では学外の方向けのドイツ語のクラスも開講しています。ドイツ語を身につけたい社会人のためのクラスもありますし、日独のハーフで日本の学校に通っている子ども向けの土曜クラスもあります。
おすすめの勉強法は、最初の基礎は机の上で勉強しても、なるべく早く実践の場に出ることですね。2週間でよいからドイツに行くとか、ドイツ語を話す友人を作るとか。

私自身も、17歳のときにスイス・ジュネーブで最初の留学をしました。ジェネーブははスイスのフランス語圏なので、自然とフランス語が身につきました。一時期はドイツ語よりもフランス語の方が流暢だったくらいです。
その後、1996年に初めて日本に留学しました。自分にとって最も難しい言語を学びたいと思って、いくつかの候補の中から日本語を選択したんです。父が日本の名古屋にある会社と繋がりがあったことも選択に大きく影響しました。
ドイツで2週間の集中講座を受けた後に訪日して、実践の中で日本語を学びました。帰国後も積極的にドイツ在住の日本人と友だちになりましたね。例えば、ベルリンに音楽を学びに来ている日本人学生とか。友人の1人と半年くらいルームシェアをしたこともあります。会話の中で知らない言葉が出てきたら手帳にメモをして、机上だけでなく経験しながら言葉を身につけることがおすすめです。

木村実践あるのみですね。言語はもちろん、世界で活躍するにはコミュニケーション力も必要かと思います。コミュニケーション力はどのように育めばいいのでしょうか。

クノット日本人は、実はコミュニケーションが得意なのではないかと思います。例えば、フレンドリーでハイテンションな民族性を持つ人でも、実は表面的な付き合いが多く、深い親友になることはあまりないというケースもあります。日本人は、話してみると個性的で面白い人がたくさんいます。控えめにしていると相手は心配してしまうので、萎縮せずにありのままでコミュニケーションを取ればよいのではないでしょうか。

男女の違いを理解した上で進める女性活躍

木村当社でも女性社員が増え、幅広く活躍しています。一方で、日本は女性管理職や、女性政治家が少ないことが度々問題となっています。女性たちがもっと活躍できる働きやすい職場にするにはどうすればよいと思われますか。

クノット簡単に解決できる話ではないですよね。ドイツでは、大学まではむしろ女性たちの方が活躍している印象ですが、どこかで男女が逆転します。一定数の女性管理職はいますが、多いとは言えません。やはり、出産が大きな壁になっていますね。子どもを育てながら仕事も余裕でこなせる環境を作らないといけません。そのための制度を整えることも必要ですね。保育所を整備して、なおかつそこで働く人達の人件費をしっかりと上げて、よい施設を作る必要があります。

私は子どもを日本の保育所に助けられました。仕事がどうしても終わらないときは電話一本で延長保育ができますし、子どもも保育園が大好きで、迎えに行くと「もっと遊んでいたい!」と言うこともよくありました。そういう施設がもっと増えるとよいですね。

あとは、子ども以外の問題として、女性のコミュニケーションスタイルへの理解というのもあると思います。一般的に、男性は積極的で勢いのあるコミュニケーションを、女性は控えめで柔らかいコミュニケーションを取る人が多いと感じます。そうすると、評価の場ではどうしても男性が目立ちますよね。そういったコミュニケーションの特性も踏まえつつ、仕事における成果をフラットに評価できるとよいですよね。女性側も、自分は配慮しすぎる傾向があることを自覚しておくとよいでしょう。

木村最後に、この連載は「豊かさの本質を見つめる」というタイトルですが、クノットさんは「豊かさ」とはどういったもの、どういった状態だと思われますか?
私は、社員が成長している姿を見るのが幸せで、そこに豊かさを感じます。また、ASEANで仕事をしていると若者が本当にイキイキしているのですが、これは経済発展していることが若者のモチベーションを上げていることに間違いないです。

クノット「未来への希望」ではないでしょうか。ふわっとした希望ではなく、現実的な希望を抱けていることが、豊かな状態だと思います。すごく力が湧きますし、心から安定します。
あとは、「よい意味での責任感」です。さきほど、木村社長が「社員の成長している姿を見るのが幸せ」と言いましたが、これも社員の成長に社長としての責任を自覚しているからだと思います。昔、香港にあるドイツ人学校の理事とお話ししたことがあるのですが、彼らは別に本業を持っていて、学園の仕事は手弁当でやっています。それでもなぜやるのかというと「何かを残したい」と言うのです。これがエンジニアなら「橋を建てる」など、自分でやったことが形として残りますが、教育の場合は形がありません。その代わり、自分がよいと思う何かが、教育を通じて後世に伝わっていったら、それは非常に豊かなことですね。

木村クノットさん、ありがとうございます。非常に貴重なお話を伺うことができました。


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