2017年3月 | 基本構想策定 |
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2019年3月 4月 |
基本計画策定 設計者選定 |
2020年6月 12月 |
コンストラクションマネジメント会社(プラスPM)へ業務委託 マーケットサウンディング開催 |
2021年7月 12月 |
建築工事 公告 主競技場建設工事 施工者決定 |
2022年1月 | 着工 |
2024年12月 | 竣工 |
お客様の声公共施設
宮崎が世界に誇る陸上競技場
「KUROKIRI STADIUM(宮崎県山之口陸上競技場)」
完成までの軌跡


KUROKIRI STADIUM(宮崎県山之口陸上競技場)
温暖な気候を生かし、行政主導でスポーツ振興を進める宮崎県。その象徴とも言える「スポーツランドみやざき」構想の一環として、新たな拠点となる「KUROKIRI STADIUM(宮崎県山之口陸上競技場)」が誕生しました。2027年開催の国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会(以下、国スポ・障スポ)のメイン会場として計画されたこの競技場は、約24ヘクタールの広大な敷地に建設され、ワールドレコードの計測が可能なトラックを備えています。地域のスポーツ振興の核となる、重要な施設です。
このプロジェクトの特徴は、宮崎県と都城市の協力体制にあります。県が主競技場(KUROKIRI STADIUM)、投てき練習場の建設を担当し、都城市は補助競技場(AKAKIRI FIELD)、多目的広場、公園の整備を担いました。同じ運動公園内で異なる発注者が並行して工事を進めるため、計画段階から綿密な調整が必要とされました。宮崎県の担当者は、この難しさを次のように語ります。
「県と市が発注した工事は合計80件。それぞれの工事区域が干渉し合うため、緊密な連携が不可欠でした。」
こうした状況に対応するため、全体進捗管理を強化する仕組みとしてコンストラクションマネジメント(CM)が導入されました。本プロジェクトにおけるCMの役割とは何だったのか、その具体的な役割を紐解きます。
プロジェクト 時系列

課題はプロジェクトマネジメント!県と市が連携した大規模プロジェクトの裏側

宮崎県 宮崎国スポ・障スポ局
施設調整課 施設整備担当
主任技師 吉田 達哉
KUROKIRI STADIUM(宮崎県山之口陸上競技場)の基本構想は2017年に策定され、設計・計画が進められていました。そして、2020年の実施設計段階で、全体の進捗管理をより確実なものにするため、コンストラクションマネジメント(CM) を導入することが決定しました。この段階で、宮崎県とプラスPMの本格的な協力がスタートします。 県側は発注者として計画の方向性を決定し、プラスPMは設計内容の整理や、工事進捗のマネジメントを担いました。
また、施工段階においても継続的に支援を行うことが決定しました。当時、県の担当者は「プロジェクトが進んで全体をマネジメントする役割が必要不可欠とわかったときに、設計内容等に精通しているプラスPMでなければ困難と考えました。」と振り返ります 。

宮崎県 県土整備部 営繕課
スポーツ施設担当
主任技師 平山 翔
大会開催という動かせないデッドラインがあり、一切の遅延が許されない中で、都城市と共同で進行する周辺施設工事、さらには隣接する道路の改良工事まで含めた"全体最適"が求められました。特に「工事発注から契約まで無事にたどり着けるのか」「施工者と品質・技術面で渡り合っていけるのか」と、不安を感じたと当時を振り返るのは、宮崎県県土整備部営繕課の平山様です。
また、当時は全国的に建設費の高騰が続いており、様々な自治体より不調不落のニュースが聞こえていました。特に九州では工事費の高騰が顕著となっており、基本構想策定時の2017年から比較すると発注時の2021年には10%程度上昇していました。
宮崎県と都城市の工事発注本数の合計は80件にのぼり、その数の多さだけでも県内の工事としては異例です。加えて国際大会基準を満たす品質とコスト管理の両立が求められる大規模工事。担当者の間には「万が一入札が不調に終われば半年以上の遅れにつながりかねない」というプレッシャーもあったといいます。

プラスPM
左:チーフコンサルタント 古川 真起子
右:コンサルタント 崇島 江介
この事態を乗り越えるため、プラスPMは県にマーケットサウンディングの実施を提案しました。県としては初めての試みでしたが、公募要件の設定から公告準備までを細かく整理することで準備を円滑に進め、2020年12月に開催することができました。結果、施工会社との意見交換を行うことで、不調不落なく適正な価格での発注を実現することにつながりました。
県と市の垣根を越えたチームを築く「全体調整会議」の存在
宮崎県は、工事の進捗管理を徹底するために全体調整会議を設けました。この会議がスタートしたのは、プロジェクト始動直後の事でしたが、県と市それぞれがマイルストーンを決定した後は一時休止となっていました。これを2021年12月の工事発注時を機に再開したのです。県と市、施工会社の担当者など約40名が2ヶ月に1度集まり、各工事の進捗や課題、工程調整を話し合いました。
「調整会議がなければ、工事同士が干渉し合っていたでしょう。お互いの工程や進捗を共有できたことで、トラブルを未然に防げました。」と平山様は語ります。
この会議の運営を担ったのが、プラスPMです。各回の準備は開催日の1ヶ月ほど前からスタート。工事現場の現状を各社から吸い上げて、全体調整会議で確認すべきことを洗い出し、会議当日には各社が確認事項に対する回答を持参し、スムーズに物事が進むように準備を行いました。会議当日は、前回会議で議題に挙がった課題の進捗状況の共有、現場で新たに行われている工事の共有、トラブルやクレームがないかの確認等がなされました。事前準備の結果、毎回1時間ほどで会議は終了し、その後、各工事の分科会でさらに細かい確認・調整がなされ、現場はスムーズに回っていました。
平山様は「プラスPMさんが事前に課題を整理し、必要資料の準備まで促してくれたことで、私たち発注者側も余裕を持って対応できました」と振り返ります。この全体調整会議は約3年に渡り、現場の要の会議として継続して行われました。

コミュニケーションとチームワークが工事進捗を円滑にする
全体調整会議は、プロジェクトをスムーズに進めただけでなく様々な利点があったといいます。
特に印象的だったエピソードの一つに、道路工事での連携があります。あるとき、道路工事の着手が主競技場の施工者に伝わっておらず、危うく資材搬入ができなくなりそうなことがあったといいます。全体調整会議でコミュニケーションを密にしていた結果、すんでのところでこの情報をキャッチしたプラスPMは、すぐに情報を共有し、関係者を集め現場で対応。以降の全体調整会議では道路の工事状況も都度確認することになりました。
また、工事も佳境に入ったところで、隣接する道路から目立つ位置に県が電柱の設置を計画していたことから位置を変更してほしいと市から要望があったことがありました。
「すでに決定した位置の変更は複数の工事に影響があるため、簡単なことではありませんでしたが、すぐに現場で関係者が集まって議論し、各工事の工程に影響ない方法で進めることができました。全体調整会議をやっていてお互いの顔を知っているからこちらも相談できるし、向こうもそれに応じてくれる。全員が"自分たちの工事が周囲に影響する"という意識を持ってくれていたことが大きかった」と平山様は言います。毎回の全体調整会議による信頼構築と、顔の見える関係性が、問題の早期発見と迅速な解決を可能にした好例です。
今回の建設プロジェクトが、その規模に対しいかにスムーズに進んでいたかを示しているのが、工事終盤にこのプロジェクトに参加することになった宮崎県国スポ・障スポ局施設調整課の吉田様の感想です。吉田様は当時を振り返り「大きなプロジェクトに途中参加したわけですが、自分が入った時にはすでに全体がよく機能していて、現場の雰囲気も良く、何の苦労もなく現場に入っていくことができました。」と言います。これはプロジェクトが順調に、風通しよく進んでいたことの表れとも言えます 。

4階テラスに配置されたベンチには、東京2020オリンピックで使用されたレガシー材が用いられてる
世界基準の品質と、宮崎らしい意匠
そして、2025年3月。山之口陸上競技場はついに完成しました。日本陸上競技連盟の公式競技会も開催できる証である「第1種公認」、そしてアジア大会レベルの陸上大会を開催できると世界陸連(WA)が認める「クラス2」を取得し、日本、そして世界に誇る競技場です。
競技場の完成にあたり、意匠設計にもこだわりました。特に目を引くのが、スタンドを覆う大屋根のデザイン。台形型のアーチ梁や屋根の柱脚には鋳物を使用し、見た目の美しさだけでなく技術的にも難易度が高い施工が施されました。「この屋根は、日差しの強い宮崎に"影"をつくりたいという要望に応え、設計者が提案したものです。そして柱のフォルムは、宮崎の象徴でもあるフェニックス(ヤシの木)をイメージし、幹が広がるようにデザインされています。」と平山様は語ります。

フェニックス(ヤシの木)をイメージした特徴的な意匠の大屋根
雨が降ると、積もった灰などと一緒に屋根を支える4本の支柱に汚れが流れ落ちる構造になっている
また、観客席のカラーリングには宮崎県のキャッチコピー「日本のひなた」にちなんだオレンジや赤のグラデーションを採用。観客席の一部はグラウンドと同じ高さに設置された"エキサイティングシート"になっています。陸上競技場ではトラックの外でも様々な競技が行われるため、フィールド内の面積を確保するために最前列を下まで降ろさないことが多いのですが、今回は"魅せる競技場"というコンセプトのもと、フィールドと同じ目線の席を設けました。エキサイティングシートはフィニッシュライン近くに位置していて、選手と同じ目線で観戦できるのはかなり珍しい設計となっています。

ゴールテープを切る瞬間を間近で観戦することが可能なエキサイティングシート
「知事からは視察の際、"山々に囲まれた眺望が素晴らしい"と喜びのお言葉をいただきました。国スポ・障スポの開催時には、満員の観客がこの景色と一体になるのではないかと、今から楽しみです。」と吉田様。その他にも、競技団体からは「誇らしい施設になった」と称賛の声が寄せられました。
最後に、今回のプロジェクトでプラスPMの果たした役割について改めて尋ねると、平山様はこう語ります。
「私たち発注者は通常業務に追われがちですが、プラスPMさんが課題に対して優先順位を付けてくれたり、懸念点を先回りしてあぶり出してくれたおかげでスムーズに進行ができました。特に全体調整会議では、事前の情報収集から当日の運営まで細やかに支えていただき、発注本数80件という前例のない規模の現場でも遅延なく竣工を迎えられたと思っています。」
また、吉田様も「コンストラクションマネジメントは外から成果の見えづらい業務ですが、設計時のマーケットサウンディングや膨れ上がる建設コストの縮減作業、建設時の全体工事調整やコスト管理のサポートなど、陸上競技場整備に御尽力いただいたおかげで無事竣工を迎えられました。」と評価します。
多くの関係者の努力と調整が結集し完成した宮崎県山之口陸上競技場。人を熱狂させる名試合や、観衆の度肝を抜く記録、そして世界に羽ばたくアスリートたちが、ここから生まれていくことでしょう。

担当者から
「安心して進められる現場づくり」のお手伝い

チーフコンサルタント
古川 真紀子
遅延の許されなかった本事業が、コロナ禍や建設費の高騰、働き方改革など、厳しい社会情勢の中で無事に竣工を迎えられたことに、宮崎県様をはじめ、都城市様、設計者様、施工者様、そして多くの関係者の皆様へ、心より感謝申し上げます。
当社は、マーケットサウンディングによる“不調不落を防ぐ工事発注支援”や、施工段階での“複数工事の調整支援”に尽力し、最大のミッションであった“スケジュールの遵守”を実現できたと考えております。
本競技場は、スポーツと同様に、すべての関係者のチームワークとコミュニケーションによって完成した施設です。この施設が、今後も地域の誇りとして、数多くの名場面を生み出していくことを確信しています。

コンサルタント
崇島 江介
本プロジェクトは、私にとって“初めて”の連続でした。基礎工事も始まっていない、まっさらな敷地を目の前にしたとき、「本当にこの場所に競技場が完成するのだろうか」と不安に思ったことを、今では懐かしく感じます。
施工段階では隔週で現地に赴き、定例会議や各種打合せに参加しました。このプロジェクトを通じて、対面でのコミュニケーションを重ね、お互いの立場を理解し合える関係性を築くことの大切さを実感しました。また、知識の偏りがある私を支えてくれた社内チームの存在にも、改めて感謝しています。
この競技場が、2027年の大会をはじめ、今後も多くの人々に活用される場となることを楽しみにしています。
建築概要
工事名称 | 新宮崎県陸上競技場建設工事 |
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事業主 | 宮崎県 |
工事場所 | 宮崎県都城市山之口町 |
敷地面積 | 118,900.74m2 |
建築面積 | 14,741.69m2 |
構 造 | RC造、一部S造 |
階 数 | 地上4階 |
延べ面積 | 22,809.73m2 |
コンストラクション・マネジメント | 株式会社プラスPM |
設計監理 | 佐藤・益田設計建築設計・監理業務共同企業体 |
施 工 | (主体工事(1工区))清水・都北・下森 特定建設工事共同企業体 (主体工事(2工区))増⽥・上⽥・⼾髙 特定建設工事共同企業体 (電気工事)三桜電⼯・⼩⽥電業・電⼯社 特定建設工事共同企業体 (管工事)株式会社エイワ (空調工事)久保設備株式会社 |
工 期 | 2021年12月~2024年12月 |