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【連載 第1回】施設整備における建物の機能と建設コストの適正化~プロセスの透明性の担保~

本コラムは、特定非営利活動法人 学校経理研究会 発行の『月刊 学校法人 2021年2月号』に弊社が寄稿した記事を再編集し、掲載するものです。

昨今、学校法人は学費の使い道についてより一層の説明責任が求められています。

施設整備は大きな投資を伴うことから、その透明性の担保と説明責任は、学校経営において非常に重要な要素です。そこで、これから数本の連載記事を通し、建物に求められる機能と投資する建設費の適正化を図る手法、プロセスの透明性を担保するために必要な手続きについて解説します。

連載 第1回の今回は、建設コストに大きな影響を与える「基本計画段階でポイント」について解説します。

建設プロジェクトの進捗とコストの確定率

建設プロジェクトは、新築の場合、事業構想から建物が完成するまで、一般的におおよそ3~5年程度の期間を要します。
「基本計画」は、学内の検討体制、整備コンセプト、整備費用、必要な整備機能や規模、整備期間等、主に施設整備全般の骨格を作る段階、「基本設計」は、基本計画で決定した内容に基づき、具体的な建物の仕様を決定していく段階、「実施設計」は、基本設計で決定した具体的な建物の仕様に基づき、工事が可能な設計図面をより詳細に作成していく段階、「工事段階」は、実施設計図面に基づき、建設会社が実際に建物を造っていく段階です。

その他、設計段階の前に設計者の選定、工事段階の前に施工者の選定を行う必要があります。

1.jpg図表1:プロジェクトの進捗とコスト確定度

図表1は、プロジェクトの進捗と、進捗によるコストの確定度を示したものです。施設整備全般の骨格を作る基本計画が完了する段階で約6割のコストが確定し、基本設計が完了する段階で約8 割のコストが確定します。

建設コストを決定する主な要因は、「建物の規模」「発注方式の工夫」「建物の仕様」の3点です(図表2)。

2.jpg図表2:建設コストを決定する主な要因

基本計画段階では、どの建物をどの程度の規模で整備するか、発注をどのように行うかといった、建設コストを確定する大きな要因を決定する段階であることから、コストに与える影響が最も大きな段階になります。また、基本設計段階では、建物の仕様(グレード)を決定することから、基本計画段階、基本設計段階での検討事項がコストに大きな影響を与えます。

一方で、実施設計段階、工事段階においては、基本計画段階と基本設計段階に比較して、コストに影響を与える検討要素が少なくなることから、コスト削減が徐々に難しくなってきます。

以上の理由から、建設プロジェクトの序盤である基本計画の段階で、経営戦略に基づいた施設整備計画の骨格作りを十分に行うフロントローディングが、建設コストの適正化を図るうえで非常に重要になります。

基本計画策定段階で重要なこと

ここまで述べてきたことからも、基本計画段階で十分な検討を行うこと、そしてその検討経過と意思決定の根拠が、学内外に十分に説明のつくものであることが重要になってきます。

施設整備は、一般的に学校法人の中長期の事業計画との整合を図りながら進めるものであることから、基本計画がまとまった段階で、学内外へ向けて趣意書を公表する機会があります。
この機会において初めて、学内外に向けて施設整備の概要を公表していくことになります。

建設事業は巨額の投資を伴うことから、この際に学校法人が説明できなければならないことは、「なぜ、どのような手順で、その施設整備計画を決定したか」ということです。そして、それを説明するためには、下記の要素について基本計画段階で十分な検討を行っておくこと、そして今後の道筋を示すことが重要です。

  1. 保有する各建物の安全状況(耐震・劣化状況)の確認
  2. 学校法人が目指す姿の明確化
  3. 建設工事費と施設整備規模の決定方法
  4. 最適な施設整備計画と整備スケジュールの策定

1.保有する各建物の安全状況(耐震・劣化状況)の確認

学校法人は、様々な機能を持つ建物を敷地内に複数保有しています。各々の建物が持つ機能を敷地内に継続的に確保しながら、どの建物に手を入れていくかを決定するためには、機能確保にかかる費用等も含め、総合的な視点で整備する建物を決定していく必要があります。

総合的な視点の中で特に重要な視点の一つに、建物の物的なライフサイクルの中で必然的に発生してしまう構造体の耐震性能の劣化や、構造体・建築設備の経年上の劣化に対する対応があります。

ア)構造体の耐震性能の劣化

構造体の耐震性能を確認する指標は、主に2つあります。

1つ目は、建物の建設年による指標です。建築基準法において構造規定の大きな改正があった1981年を境に、以前に建設された建物は旧耐震建物、以降に建設された建物は新耐震建物と呼ばれています。

新耐震基準に基づいて設計された建物は、現行法に則った構造性能が担保されていますが、旧耐震の建物は、現行法での構造基準で設計されていないため、その耐震安全性を確認するための指標として、2つ目の指標であるIS値があります。

国土交通省では、構造安全性が確保されたIS値の最低値として、建物の用途を問わず0.6を規定しているのに対し、文部科学省が規定する学校施設のIS値は0.7となっています。
数値が高いほど耐震性能が高いため、学校施設は高い安全性が担保される必要があることを意味しています。
そのため、学校施設において、旧耐震建物でIS値が0.7を下回る建物は、建物を補強することで構造性能を担保する必要があります。耐震性能を確保するための工事には、国からの補助金も整備されているため、積極的に活用したいところです。

イ)構造体・建築設備の経年上の劣化

構造体の劣化は、建物施工時のコンクリートの品質管理の仕方と、その建物が建つ環境に大きく左右されます。

施工時の品質管理がしっかりなされていない建物は、コンクリートの打設状況が悪く、経年の中で壁や床にひび割れが発生します。室内で人の呼吸により発生する二酸化炭素や、室外の雨に含まれる酸性分がひび割れから構造体に侵入すると、コンクリート内部の鉄筋の酸化(錆)が進み、コンクリートの爆裂に繋がります。
また、コンクリートは元来アルカリ性の物性を持ちますが、侵入した酸により、コンクリート自体の中性化が進み、構造体の劣化が進行します。

構造体の中の状況は目に見えないため、構造体の現状性能を確認するためには、建築士や調査会社による専門的な調査が必要になりますが、この調査を行うことで、建物があとどの程度の年月、性能上問題ないか、建物の寿命を数値的に判断することが可能になります。
調査により状況が確認できれば、その建物を使い続けるためにどのような補修が必要になるかを抽出することが可能になります。
また、電気設備や空調換気設備、給排水設備、昇降機設備は、15~20年程度のサイクルで機器自体の寿命を迎えるため、一定年月での交換が必要になります。

このように構造体の耐震性能、構造体・建築設備の劣化状況について各々の建物の現況を把握し、必要な修繕項目を積み上げることで、その建物の構造上の余された寿命におけるランニングコストを把握することが可能になります。

以上により確認された、建物を使い続けていく上でのランニングコストと、同規模の建物を新築した際の建設費を試算し比較することで、解体して新築すべきか、改修して使い続けていくべきかを、根拠を持って判断することが重要です。

2.学校法人が目指す姿の明確化

施設整備を行ううえでは、学校法人が掲げる教育理念に基づき、理念を実現するために必要な施設整備投資を適正に見極め実行していくことが重要です。
そのために必要な、特筆する手続きが4つあります。

ア)会議体の構築

序盤で述べたように、施設整備は大きな投資を伴います。最終的な意思決定は、理事長や学長等の意思決定者が行うことになりますが、整備の方針は学内で各々の分野を担う専門の方々の意見も吸い上げながら、適切な議論のうえ決定されるべきです。
そのためには、意思決定のフローと、組成する各会議体で議論する内容、決裁権の範囲を、事前に明確にしておくことが大切です。

3.jpg図表3:会議体の模式

図表3は、会議体組成の一例です。
最上位のキャンパス再整備会議は、財務判断を伴う施設整備の全般に係る意思決定を行う機関、その下の検討委員会は、意思決定に基づき、整備内容について横断的に検討し、検討課題を振り分ける機関、さらにその下の複数のワーキンググループは、振り分けられた検討課題を具体的に検討する機関として構築されています。

どの会議体で何を行うか、議論内容と決裁権、フローを明確にした会議体の組成を行うことで、学内の意見を吸い上げながら合議を持った整備内容の構築が可能になります。

イ)教育理念に基づいた整備コンセプトの策定

施設整備は、学校法人各々が掲げる教育理念に基づいた教育活動を、社会の中で永続的に行っていくために必要な設備投資ですが、変化する時代の中では、情報・デジタル技術の発達による教育スタイルの変化、社会に求められる人材の変化、児童・生徒・学生数の変化、学部・学科等の再編成、学内理事会の組成変更等、外部・内部環境の様々な要因により、学校法人が目指す姿も変化していきます。

そのため、施設整備を行う際には、今一度、学校法人が目指す姿や施設整備を行う目的について議論し、整備コンセプトを明確にすることが重要です。

4.jpg図表4:整備・コンセプトのブレインストーミング図

図表4は、基本計画段階の初期に、ある学校法人の経営層の個々人が目指す学校の姿をブレインストーミングし、施設整備を行ううえで重要なキーワードを枠組みごとにまとめたものです。
これらのキーワードをもとに、施設整備のコンセプトを明文化していくことで、以降の検討段階で様々な立場の方々から多くの意見が上がった際に、立ち戻る考え方を共通認識し、ブレや無駄のない施設整備を行うことが可能になりました。

ウ)整備コンセプトに基づいた施設整備方針の策定

施設整備方針は、イ)で策定した整備コンセプトを、実際に建物の計画に反映していく際に必要な、より具体的な方針です。
例えば、「学生が集う場所を充実する」という整備コンセプトに対し、「食堂を〇〇名規模に拡大する」「図書館にラーニングコモンズを整備し、加えて一層のデジタル化を図る」等、教育理念を施設整備に置き換えた際に具体的に何を行うかという方針立てです。
この施設整備方針を策定することで、整備コンセプトについて、具体的に建物にどう反映するかという方針づけを行うことが重要です。

会議体、整備コンセプト、整備方針を策定し、以降のプロセスを進めるためのフレーム作りを行うことで、合議と根拠を持って施設整備を進めていくことが可能になります。

3.建設工事費と施設整備規模の決定方法

ア)建設工事費の決定方法

施設整備を行ううえでは、建物の建設自体にかかる工事費用以外にも、下記に挙げるような諸経費が必要になります(図表5)

  • 土地の取得や、借地関連の費用
  • 設計費や確認申請、開発申請等の費用
  • 耐震診断、劣化調査、アスベスト調査、土壌汚染調査等の各種調査費用
  • 什器備品、情報 LAN 設備の費用
  • 移転引越し費用、外部施設レンタル費用
  • 消費税

5.jpg図表5:施設整備関連事業費の構成

学校法人が決定する施設整備投資額は、これらの諸経費を工事費に含めた総額として考えられることが多いため、投資額の決定後、上記経費を除いた額を、建設工事費として設定する必要があります。
この経費を基本計画段階で事業費に見込まなかった場合、検討が進むにつれ、経費分が追加され、法人収支を圧迫することになります。

イ)建設市況の把握

経済状況により物価が変動するのと同じく、建設市況もその時代の経済状況に大きな影響を受けます。
そのため、10年前に建設した建物と同等の規模の建物が、どの時代においても同等のコストで建設可能になるとは限りません。

建設市況の推移について、統計的なデータによれば、2008年を100とした際、現在の市況は120程度となっています。つまり、2008年時と同じ規模の建物を現在の市況下で建設しようとすれば、単純に1.2倍の建設コストが必要になります。

建設投資は法人収支が成立することを前提に決定されるべきですので、投資額の中で可能な建設工事費を試算し、建設市況を把握した上で、施設整備規模を決定していくことをお勧めします。

ウ)整備規模・内容の決定

2.3.で施設整備方針を策定し、建設工事費が決定された後は、より具体化した整備規模・内容を決定していく段階に入ります。
整備規模を決定する際に重要なことは、経営の圧迫を防ぐために、必要以上の設備投資を避けることです。

〇既存施設の稼働率の確認

 必要以上の設備投資を避けるためには、既存の施設の稼働率を可視化することが効果的です。

図表6は、ある学校法人の学部が保有する諸室の稼働率を可視化したものです。3割~4割の稼働率である諸室が多く、新設しようとしていた諸室機能をこの稼働率の低い諸室に割り当てることで、新設規模を縮減させました。
稼働率については、教育カリキュラムへの影響が大きいため、稼働率の上限値をどこに置くか一定の指標を持つことが大切です。

6.jpg図表6 稼働率の可視化

諸室の稼働率を6割程度に設定されている学校が多い印象ですが、教育カリキュラムに影響がなければ、8割程度まで上げていく思い切った判断も、投資を抑えるうえで重要ではないでしょうか。

〇整備規模の決定

建物の仕様や所在によりますが、現在の市況下において、関東近辺の新築の学校施設の坪単価は、110~ 160万円/坪(税別)程度の価格帯で建設されている事例が多い状況です。
この単価を参照しながら、学校法人が目指す建物仕様(坪単価)の目標値を決定し、建設工事費を割り戻すことで、設定した建設工事費の中で整備可能な建物規模を設定することができます。

4.最適な施設整備計画と整備スケジュールの策定

ア)最適な施設整備計画の決定

整備可能な施設規模(面積)の設定後は、学校法人の教育理念を実現するために必要な整備機能と照らし、施設整備計画を決定するステップに入ります。

複数棟の整備を検討されている場合は、特に建設中の建物の機能確保のために、必要な機能を別建物に移しながら整備を行うローリング計画(部分的な建替えを継続する手法)が、整備計画を決定する大きな要因になる場合があります。建替えパターンによっては、仮設の建物が必要な場合もあり、後に解体しなければならない建物に巨額な投資をすることは、できれば避けるべきです。

施設整備計画を決定するうえでは、先に述べた整備コンセプト、施設整備方針と照らし、安全性や教育カリキュラムへの影響、10年先、20年先に建替え期を迎える建物の整備方針も含め、横断的な視点で複数案を比較検討しながら、今期の整備計画を決定することが重要です(図表7)。

7.jpg図表7:複数案の比較検討

イ)整備スケジュールの策定

基本計画の最終段階では、今後の整備スケジュールを構築し、合わせて今後の課題をまとめておくことをお勧めします(図表8)。

整備スケジュールを構築するためには、法・条例の手続き期間や設計に要する期間、工事に要する期間を具体的に検討し、また、設計や施工の発注をどのように行うか、発注方式を決定することも、この段階で必要な手続きになります。発注方式については、コストに与える影響が大きいことから、第2回(次回更新)で具体的に解説します。

ここでは、設計発注にかかる期間、施工発注にかかる期間もスケジュールの中に適正に見込み、全体の事業スケジュールの指標を設定しておくことが大切です。

8.jpg図表8:整備スケジュールの構築

まとめ

健全な学校経営を永続していくためには、投資計画の適正化が必要です。
昨今、学内の経費削減の観点から、一級建築士を学内に配置する学校法人も少なくなり、一方で建設行為は専門性の高い分野であることから、施設整備計画の立案や建設コストの妥当性を学校法人内部で判断することが難しくなっています。
そのため、基本計画から竣工まで、建設プロジェクトの全段階にわたり、品質・コスト・スケジュールを学校法人側の立場でマネジメントする専門会社であるコンストラクション・マネジメント会社を採用するケースも増えています。

コンストラクション・マネジメント会社をうまく活用することで機能とコストの適正化を図ることは、施設整備を成功させるうえで大きな効果があると考えます。
今回(連載 第1回)では、施設整備の骨格となる基本計画段階で重要なことについて解説しました。次回 第2回では、建設コストに大きな影響を与える要素の一つである「発注方式」をテーマに、各々の発注方式の特徴やコストに与える影響、事業特性に応じた効果的な発注方式、発注者のリスクの度合い等について解説させていただきます。

(つづく)

【連載 第2回】はこちら


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