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※本コラムは、特定非営利活動法人 学校経理研究会 発行の『月刊 学校法人 2021年5月号』に弊社が寄稿した記事を再編集し、掲載するものです。
昨今、学校法人は学費の使い道についてより一層の説明責任が求められています。
施設整備は大きな投資を伴うことから、その透明性の担保と説明責任は、学校経営において非常に重要な要素です。 そこで、数回の連載を通し、建物に求められる機能と投資する建設費の適正化を図る手法と、プロセスの透明性を担保するために必要な手続きについて解説しています。
連載2回目の今回は、建設コストを決定する主な要因の一つである「発注方式の重要なポイント」を解説します。
連載 第1回の前回は、プロジェクトの進捗とコストの確定度(図表1)を解説し、建設コストの6割を決定する「基本計画段階」での重要ポイントを解説しました。また、建設コストを決定する主な要因は「建物の規模」「発注方式の工夫」「建物の仕様」の3点であることを解説しました(図表2)。
発注方式には次の 4 つの構成要素があります。
ここでは、上記4つの構成要素を適切に組み合わせて発注していくことを「発注方式の工夫」と定義し(図表3)、今回の寄稿では、各々の構成要素についてその具体を解説した上で、整備事業の特性により適切な組み合わせで発注方式を決めていくことの有効性について解説します。
図表3:発注方式の工夫
契約方式には、大きく4つの種類があります(図表4)。
ここでは、各々の契約方式について、品質・コスト・スケジュールの観点から述べた上で、どのような特性を持つ事業に向いた方式であるかを解説します。
設計業務を設計事務所へ、施工業務を建設会社へ発注する方式です。
設計段階では発注者の要望を着実に設計図書にまとめ、工事の調達は実施設計が完了した段階(=仕様が確定した段階)で行うため、工事価格の透明性・客観性が最も担保できる方式です。
一方で、特に難易度の高い工事の場合は、設計段階で建設会社の技術力を活用することができないため、建設会社の技術力を用いた建設コスト低減が期待できません。また、実施設計完了まで工事金額が判明せず、工事工期の確定ができません。比較的事業スケジュールに余裕があり、学内の多くの意見を着実に設計品質に落とし込みながら進める必要のある事業に適した発注方式です。
基本設計のスタートから建物完成までを一貫して建設会社へ発注する方式です。
工事の調達を基本設計開始前に行う性能発注であるため、工事価格の透明性・客観性の担保が難しい側面がある一方で、特に難易度の高い工事の場合、設計段階で建設会社の技術力を活用することによりコスト低減が期待でき、基本設計開始前に建設コストと工事工期を確定できるメリットがあります。
この方式を採用する場合、可能な限り仕様を明確にした基本計画を発注者側で策定し、発注を行うことが、建物品質を担保するために必要です。既存建物の大規模な改修工事や、敷地内の複数の建物の複雑な玉突き工事等、工事の難易度が比較的高く、建設コスト、工事工期を早々に確定したい事業に適した発注方式です。
基本設計を設計事務所へ、実施設計以降から建物完成までを建設会社へ発注する方式です。
上述の 1.設計・施工分離発注方式と 2.基本設計デザインビルド方式の間を取った発注方式で、基本設計で建物の規模、意匠・構造・設備仕様を決定し発注する中程度の性能発注です。実施設計以降の段階で建設会社の技術力を活用することにより建設コストの低減が期待でき、実施設計開始前に建設コストと工事工期を確定することができます。
2. と同様、工事の難易度が比較的高く、建設コスト、工事工期を早々に確定したい事業に適した発注方式です。2. に比較し、基本計画を発注者側で入念に計画する必要がないのが特徴です。
1.設計・施工分離発注方式の形態をベースに、設計段階から施工者が参画し、施工の実施を前提として、設計に対する技術協力を行うものです。
施工者の参画時に、発注者と施工者は「基本協定」を交わし、実施設計完了後の価格交渉で合意に至った場合には工事契約を結ぶ方式です。施工者の技術力を設計段階から投入するので、建設コストの削減、工事工期の短縮を図ることができます。
設計段階で設計事務所や建設会社の専門家が多く参画する特性上、工事の難易度が非常に高く複雑な事業や、建設コスト、工事工期を大幅に低減・短縮したい事業に適した発注方式です。
ただし、学校建設においてECI方式を採用するほどの難易度の高い工事は稀であることと、竣工時の責任の所在(設計責任か施工責任か)が不明瞭になるデメリットがあるため、学校建設において ECI 方式が採用されることはほとんどありません。
契約の相手方の候補を設定する方法で、大きく3つの種類があります。ここでは、各々の競争参加者の設定方法を述べた上で、どのような特性の事業に向いた方式であるかを解説します。
入札に参加できる資格要件を発注者側で決定し、広く一般に公募をかけ、資格要件を満たす会社であればどの会社でも入札に参加できる競争方式です。
最も透明性を担保しやすい方式であり、特に補助金等を活用する事業で採用されます。
入札に参加してほしい参加者を発注者側で数社決定後、発注者側から指名を行い、指名された会社が入札に参加できる競争方式です。
過去に敷地内の他の建物を手掛けた実績がある企業複数に参加してほしい場合等に採用されます。透明性を担保するため、発注者は参加者への指名理由を明確にする必要があります。
競争等によらず、発注者が任意に決定した相手方と契約を結ぶ方式です。
競争に付さないため、手続きの簡素化や早期に契約が締結できるメリットがある一方で、透明性や予算に対する効率性には劣る方式です。
相手方に求める条件を審議していった結果、条件を満たす相手がごく少数しかいない場合や、既存建物の改修等を行う場合で、既存建物に特殊な工法等が使われており、元施工の会社に工事を依頼したほうが効率が良い場合等、特別な事情がある場合に採用されます。
契約の相手方を選定する方法で、大きく3つの種類があります。
ここでは、各々の落札者の選定方法を述べた上で、どのような特性の事業に向いた方式であるかを解説します。
契約の相手方を価格のみで決定する方式です。
入札額の多寡のみで落札者を決定するため、入札参加資格要件で技術力が担保されるようにする必要があります。また、不当に安い入札価格では、適切な業務履行が行われない可能性があるため、最低制限価格を設定する、入札額が適正かどうかを専門家が確認する等の工夫が必要です。
比較的難易度の低い工事や、工事発注時に明確に工事仕様が決定している設計・施工分離発注の場合の工事契約、補助金等を活用する事業の工事契約時に採用される方式です。
入札額と技術提案との総合評価により、最も評価点の高い者を落札者として決定する方式です。
特に、入札価格のみで落札者を決定することが相応しくない、難易度の高い工事に採用されることが多く、入札額と技術提案の評価の配点比率は、業務の難易度に応じて設定するのが一般的です。
複数の者に目的物に対する企画を提案してもらい、その中から優れた提案を行った者を選定する方式です。
主に設計者(設計事務所)を選定する際に採用される方式で、提案内容の評価と同時に「企業・人」を評価するのが特徴です。この際の業務対価は、選定された設計者と発注者の交渉・合意により決定します。
ここまで発注方式の構成要素を3つ示してきましたが、最後は、学校法人の特性に鑑みた、発注方式のさらなる工夫について解説します。
建設工事は、大きく建築工事・機械設備工事・電気設備工事から構成され、各々の工事をどのように発注するかは、発注者の裁量で決定することができます。
この際、建築主体の総合建設会社に一括で工事を発注し、機械設備工事や電気設備工事は、元請けの総合建設会社から専門工事会社に発注する手法を取ることで、各工事で必要となる仮設工事を共通化でき、工事経費を削減することができます。
各工事間の調整を総合建設会社が行うため、発注者の労力面での負担が軽減されるメリットもあります。
学校法人は、敷地内に多くの建物を保有することが多く、各々の建物で異なる専門工事会社を採用することが、維持・メンテナンスの観点から必ずしも理に叶わない実情があります。
コストオン発注とは、敷地内の他の建物の機械設備工事、電気設備工事、ネットワーク・LAN 設備工事、エレベーター工事等を手掛けている専門工事会社等を候補に、新設建物の専門工事を行うのにふさわしい専門工事会社を発注者側で個別に選定した上で、発注者と専門工事会社で工事費を取り決め、その工事費に現場管理費を上乗せして元請けの総合建設会社に発注する方式です。
①総合建設会社への一括発注では、専門工事会社の選定は総合建設会社の裁量に委ねられますが、コストオン発注では、専門工事会社を発注者側で指定でき、かつ、契約自体は元請の総合建設会社との契約のみとなるため、発注者側のリスクが軽減されます。また、既存の建物とのネットワークの連携や、維持メンテナンスの際の窓口の削減に役立ちます。
工事発注時に総合評価で落札者を決定する場合、技術提案の中に VE*提案を募る手法があります。
施工者の技術やノウハウを活用し、品質・価値を落とさずにコスト削減が可能な提案を募り、発注者側で採否を決定した上で価格に反映していく手法です。VE 提案により、よりローコストで高品質な建物を実現することが可能になります。
*VE とはバリューエンジニアリングの略で、品質・価値を落とさずにコスト削減を行う手法を総称するものです。
総合評価やプロポーザルで落札者を決定する場合、VE 提案の他にも、学校法人ごとの事業特性により、多様な提案を求めることが可能です。例えば、工期短縮の工夫や、敷地内の学生への安全対策、今後は社会環境への配慮の観点から SDGs への取組み等も重要なテーマになってくることでしょう。
CM方式とは、発注者の立場に立ったコンストラクションマネジャー(CMr)が、プロジェクトの目標や要求の達成を目指して、建設事業を主体的に進めていく方式です(図表5)。
図表5:CM方式とは
ここまで、発注方式の構成要素を4つ挙げ、各々の要素の具体を述べる中で、方式ごとのメリットとデメリットを述べてきましたが、各項目に示したデメリットは、CM方式を採用することで、そのほとんどを払拭することができます。
例えば、基本設計デザインビルド方式で契約を結びたい場合、発注者側で基本計画を策定する必要がありますが、建設の専門家である CMrが基本計画の策定支援を行うことが可能です。また、専門的な内容である工事請負契約の確認支援、見積り金額の妥当性確認、発注後の工事費増減の適否判断など、発注者側の立場で建設事業全体の推進を支援する建設の専門家の存在は、発注者の強い味方になることでしょう。
健全な学校経営を永続していくためには、投資計画の適正化が必要です。
今回の寄稿では、建設コストに大きな影響を与える「発注方式」について、4つの構成要素と各々の特性を解説しました。例えば、下記のような特性を持つ事業では、基本設計デザインビルド方式×指名競争入札×総合評価方式の発注方式をベースに、より安価での発注を目指し、VE提案付きの総合評価としたり、発注後の工事費の透明性の担保のためにCMrを採用することで、品質・コスト・スケジュールともにバランスの取れた適切な発注が可能になります。
このように、発注にあたっては、ここまでに述べた4つの構成要素と各々の特性を把握し、適切に組み合わせ、事業性質に応じた発注方式に工夫していくことで、大きなコスト削減に繋がると同時に、事業の透明性の担保と説明責任を果たすことが可能になります。
次回は、連載 第3回は「設計者選定・施工者選定時のポイント」をテーマに、「選定プロセスの透明性の担保」について解説させていただきたいと思います。
(つづく)
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