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※本コラムは、特定非営利活動法人 学校経理研究会 発行の『月刊 学校法人 2021年8月号』に弊社が寄稿した記事を再編集し、掲載するものです。
昨今、学校法人は学費の使い道についてより一層の説明責任が求められています。
施設整備は大きな投資を伴うことから、その透明性の担保と説明責任は、学校経営において非常に重要な要素です。 そこで、数回の連載を通し、建物に求められる機能と投資する建設費の適正化を図る手法と、プロセスの透明性を担保するために必要な手続きについて解説しています。
連載3回目の今回は、大きな投資を伴う施設整備の設計者・施工者選定時において、建設コストの適正化と、プロセスの透明性の担保のために重要なポイントを解説します。
連載 第1回では、プロジェクトの進捗とコストの確定度を解説し、建設コストの6割を決定する「基本計画段階」での重要ポイントを解説しました。また、建設コストを決定する主な要因は「建物の規模」「発注方式の工夫」「建物の仕様」の3点であることを解説しました(図表1)。
連載 第2回では、建設コストを決定する主な要因の一つである「発注方式」をテーマに、発注方式を構成する4つの要素「発注方式の種類」「競争参加者の設定方法」「落札者の選定方法」「その他の工夫」を適切に組み合わせ、事業の性質に応じた発注方式に工夫することが、大きなコスト削減に繋がると同時に、事業の透明性の担保と説明責任を果たすことを解説しました(図表2)。
設計者・施工者の選定手続きを開始するにあたっては、まず、学校法人内規の調達規定の確認が必要ですが、前述の通り、施設整備は多大な投資であることから、専門家の意見を聞きながら的確な選定方法を取り入れることをお勧めします。
ひと昔前に遡れば、学校法人はキャンパス内に複数の建物を保有するため、建物のデザイン性の統一やメンテナンスの都合上、特定の設計事務所、特定の建設会社に依頼する傾向が強かったのですが、施設整備は大きな投資を伴うため、時代の流れとともに、選定プロセスの透明性や価格の妥当性が問われるようになり、昨今では複数社の競争下で選定を行うことが重要という意識が高まりつつあります。
特定の設計事務所、特定の建設会社への依頼(特命随意契約)の形を取られる学校法人でも、昨今では、価格の妥当性について第三者に見解・査定を求める学校法人が増えています。
前回で解説した通り、建設プロジェクトを進めるにあたって、設計者・施工者への発注方式には、「設計・施工分離発注方式」「基本設計デザインビルド方式」「実施設計デザインビルド方式」「ECI方式」の、大きく4つの種類があります(図表3)。
この4つの方式には、発注対象が設計のみであるか、設計と施工の両方であるか、施工のみであるかの違いがあります。ここでは、発注方式ごとに必要な選定の種類(図表4)と、各々の選定で採用率の高い選定方法について解説します。
設計者選定においては、学校施設のような大規模かつ高い技術力を要する施設は、プロポーザル方式が主流になっています。
プロポーザル方式は、複数の者に目的物に対する企画を提案してもらい、その中から優れた提案を行った者を選定する方式で、「提案内容」と同時に「企業・人」を評価するのが特徴です。この際の設計料は、選定された設計者と発注者の交渉・合意により決定します。
設計施工者選定においては、学校施設のような大規模かつ高い技術力を要する施設は、総合評価型の競争入札方式が主流になっています。
総合評価型の競争入札方式は、技術提案と入札額の総合評価により、最も評価点の高い者を落札者として決定する方式です。特に、入札価格のみで落札者を決定することが相応しくない、難易度の高い工事に採用されることが多く、技術提案と入札額の評価の配点比率は、事業の特性に応じて設定するのが一般的です。
施工者選定においては、設計仕様が明確に固まっている状態での発注になるため、契約の相手方を価格で決定する価格競争方式、または総合評価落札方式が採用されます。
価格競争方式は、入札額の多寡のみで落札者を決定することのリスクを払拭するため、入札参加資格要件を設定し、技術力を担保したり、施工体制・品質を担保するために、仮設計画や施工体制の提案を伴う総合評価型落札方式を取る事例も増えてきています。
また、不当に安い入札価格では、適切な業務履行が行われない可能性があるため、最低制限価格を設定する、入札額の適正を専門家が確認する等の工夫が必要です。
今回の寄稿では、設計者選定、施工者選定の両方を対象としますが、発注方式により多種多様な選定方式が存在するため、ここでは、昨今採用事例の多い総合評価型競争入札で設計施工者を選定するケースについて、選定の流れとポイントを解説します(図表5)。
選定にかけることができる期間は、事業の状況により異なるため、許された期間で現実的に可能な選定・評価方法を個別に設定する必要があります。その際、参加者側が提案や見積もりに要する時間を十分に加味し選定スケジュールを策定することが、不調不落を回避する上で重要です。
この段階は、発注者の労力を多く要する部分ですが、この段階で選定の流れや方針をきちんと策定することが、「最適なコストで最適なパートナーを選定する肝」になります。
選定に際して、まず、どのような会社に参加して欲しいかを決定します。下記のような要件が挙げられます。
例えば、過去10年以内において、4,000㎡以上の小学校の校舎を設計または建設した実績があること等、具体的な数値を示します。
特に契約金額の大きな施工者選定においては、工事中に倒産してしまうと発注者リスクが大きいため、経営事項審査※ の情報や、与信調査会社の情報をもとに、与信についての具体的な数値を示します。
※ 建設会社の企業規模や経営状況などの客観事項を審査した、建設業法に規定する審査。
事業を進めていく上では、目前で一生懸命動いてくれる担当者の技術力や人となりは非常に重要な要素です。企業実績と合わせて担当者の実績も設定し、以降のプレゼンテーションで担当者の人となりを確認することが重要です。
参加者に求める要件が決定したら、次は、参加者をどのように評価し、最終的に 1 社の落札者に決定していくか、評価基準を決定します。一般的には、①で設定した参加者の実績の他、技術提案、価格(設計費、工事費)を総合的に評価します。
①a.で設定した実績の他、資格等を評価します。建物実績は、計画建物の半分程度の規模を要件化するのが一般的です。実績を問う際のポイントは、過度に高い要件を設定しないことです。技術提案を伴う選定は、参加者側に多くの負担がかかるため、その入り口である実績で満点を取れなければ参加しない会社もあるので、注意が必要です。
事業において特筆して重視するテーマを、3つ程度設定します。「事業への取組み体制・事業への理解」「目標予算、事業工程を遵守するために配慮する事項」「災害対応、将来対応、ICT 対応、環境配慮事項」等が挙げられます。
技術提案テーマを設定する際のポイントは、過度に複数のテーマ設定を行わないこと、ある程度定量的な評価が可能なテーマを設定することです。
価格評価には、いくつかの一般的な算定式があります。「入札参加者中の最低入札価格÷当該参加者の入札価格×価格配分点」等が挙げられます。以降③に解説する評価配点の検討と合わせ、シミュレーションをかけながら、事業の特性に適した算定式を設定することが重要です。
②で設定した評価基準について、例えば、実績点 100 点+技術提案点 400 点+価格点 500 点=計 1,000 点等、事業の特性に適した評価配分を設定し、参加者の数や特性からシミュレーショ
ンを行い、最適な配分に決定します。
同時に、評価委員会を立ち上げ、評価メンバーを選定します。建設事業の評価・選定は非常に専門的であるため、学内に専門家を有しない学校法人は、専門家(コンストラクション・マネジメント会社等)を採用する場合も多くあります。
公告・指名に先立ち、ここまでに①②③で決定したことを選定用の資料として整備します。
選定用資料には下記のものがあり、整備ポイントと合わせて解説します。
実施要綱は、事業の目的や計画概要、選定・評価のスケジュール、対象業務範囲、業務内容、書類の提出方法等、選定に際して必要な事項を示すものです。
参加者に求める書類は、あらかじめ様式として整理し配布することで、バラバラの書式で提出されることによる事務的な手間をなくすことができます。
設計者選定、施工者選定までに学校法人が構想を練ってきた内容を示す計画与条件になる書類です。学校法人が求める建物水準を可能な限り文書化し、まとめることが重要です。
Step1 ①②③で策定した基準を文書化したものです。技術提案を伴う選定は、参加者に多くの負担がかかるため、事前に選定基準を明示することは参加者側への配慮になるとともに、透明性・公平性を担保する上では欠かせない要素です。
選定時に参加者に見積書を求める場合、見積り徴取前に契約書案を示すことも大切です。契約内容によって価格は変わるため、事前の契約書案の提示は、見積り徴取後のトラブルを防ぐことに繋がります。
この段階は、対外的に発注手続きを開始し、参加者から提案書・入札書を受領する、主に参加者側の労力を要する部分になります。多くの労力をかけて参加する参加者に対し、発注者として可能な限りの情報を開示し、提案の基礎条件を提供していくことが、双方の関係性を深め、「最適なコストで最適なパートナーを選定する肝」になります。ここでは、段階ごとのポイントを解説します。
参加者を公募により招集する場合は、学校法人のホームページや建設関連の新聞の活用により、指名により招集する場合は、指名会社にダイレクトに招集をかけます。
建物の規模に適した、多過ぎず少な過ぎない参加者数にすることが重要です。
公告、指名開始後、参加者からの質疑と回答を経て、参加表明を受領します。明確な参加意思を示した会社と機密保持を交わし、より具体的な情報を開示していきます。選定では、機密性の高い情報を開示する場面が多いため、セキュリティに十分に配慮することが大切です。
現地確認会では、事業の特性に合わせ、参加者に実際に既存の建物や敷地の状態を見ていただくことをお勧めします。現在使っている建物の不具合や、新設・改修する建物に求めること、敷地の条件を実際に見ていただくことで、双方の理解を深めるとともに、見積りの抜け漏れ防止にもつながります。
参加者からの提案書と入札書を受領します。選定の透明性を担保するための手法として、参加者の社名を伏せて審査を行う事例や、開札は提案審査を行った後に行う事例などがあります。
提案書の受領後、参加者によるプレゼンテーションまでは 1 週間程度の期間を確保し、提案書をしっかりと読み込んでプレゼンテーションに参加すること、必要に応じて専門家に意見聴取することをお勧めします。
この段階は、参加者から受領した実績・提案書・入札書を、評価基準・配点に基づき評価し、落札者を決定・契約していく段階です。ここでは、参加者への質疑や対話等を通し、不明点をクリアにしていくことが、「最適なコストで最適なパートナーを選定する肝」になります。
ここでは、段階ごとのポイントを解説します。
提案書の受領後、実際に参加者に提案内容についてのプレゼンテーションを求めることをお勧めします(図表6)。
書面ではわからない提案の解説や、参加者の人となりに触れることで、共に事業を進めていくパートナーとしての適否を判断します。
プレゼンテーションでは、質疑の時間を十分に設け、不明点をクリアにしていくことが重要です。
また、学内への説明に備え、写真や議事録で記録を残しておくことをお勧めします。一通りのプレゼンテーションと質疑の終了後、評価基準・配点に基づき審査を行います。
提案審査の終了後、開札、総合評価を行います。評価基準・配点に基づき、評価点を集計し、結果を可視化します(図表7)。結果については、
評価委員会で議論の場を持ち、結果に異論はないか、参加者に契約までに確認すべき事項等があればピックアップし、確認することをお勧めします。
集計結果と議論を経て、最優秀交渉権者を決定します。万が一、最優秀交渉権者との契約が整わない可能性に備え、次点までを決定しておくことをお勧めします。
最優秀交渉権者、次点の決定後は、全参加者に結果通知を行います。合わせて、学校法人のホームページに結果を公表することで、より透明性が増します。結果を公表する際には、評価基準・配点に則り、各参加者の点数、順位、評価の過程や各参加者の提案に対しての評価サマリーを開示すると、参加者側の納得感も高まり、学内外に対しても選定過程の透明性を示すことができます。
結果通知後は、最優秀交渉権者との契約手続きに入ります。大きな投資を伴う事業ですので、契約手続きでは、双方の条件を改めて擦り合わせ、疑問点や不明点をなくしていくことが大切です。
大きな投資を伴う施設整備の設計者・施工者選定において、建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するためには、下記の3つが重要です。
設計者・施工者選定では、選定資料の整備から評価基準の策定、選定運営、選定後の手続きまで、非常に多くの労力がかかるとともに、専門性の高い分野です。建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するため、コンストラクションマネジメント会社等の専門会社を活用することをお勧めします。
次回 連載第4回は、設計者選定後の基本設計段階、実施設計段階において、建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するために必要な、品質・コスト・スケジュールの管理手法について、重要なポイントを解説します。
(つづく)
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