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病院建設

いい病院を作る"部門別ヒアリング"とは ~病院設計ヒアリングで大切なこと~

2022.3.4改訂(2017.10.2公開)

新病院を設計する中で現場のスタッフの方々を集めた「部門別ヒアリング」という打合せがあります。
先日当社に、取りまとめを行う立場の事務長より、直近で開催したヒアリングについて相談を受けました。
現場スタッフ事務局に対して以下の不満があったのとのことです。

「ヒアリングに向け課題や要望を出して欲しいと言われるのだけど、建築に対する要望とは何かがそもそもわからない...... 」「忙しい業務の合間に急に連絡を受けて意見をまとめてくれといわれても困る」

といったことや、

「打合せはもう3回目なのだが、毎回思いつくままに要望を言っては みたものの、設計者に上手く伝わっていないようで、要望の一部がいつまで経っても反映されない」「選択肢を行ったり来たりし、堂々巡りの議論となっている部門がある」「いつまでも空白の部屋が残っていて進んでいるのかわからない」

など、このまま進めてまとまるのか不安になっているというお話しでした。
追加のヒアリングを行うと言ってもスケジュールが遅延してしまうし、忙しい現場のスタッフの不満も溜まっていそうだとのことです。

設計者が行うヒアリングの目的は、現場スタッフの方と直接対話する中で、病院側の要望を把握し、与条件という形で整理した上で、建築というハードに変換していくことにあります。

しかし、大多数の病院スタッフは設計ヒアリングに参加することが初めてです。
要望を正確に設計者に伝えるのが困難である場合が多いことは想像に難く無いでしょう。

今回のコラムは、成功している設計ヒアリングでの取り組みから、現場スタッフの満足度を高め、高品質の病院設計を行うポイントをご説明します。

病院設計者はヒアリングの難しさを熟知していますので、なんとか的確に与条件を引出し、合意形成を図ろうと時間いっぱい、それこそ朝から夕方まで話続けます。しかし、ヒアリングにかける膨大な時間も大事なのですが、成功はその前後の取組みが重要な鍵となっている様です。

行っていますか?4つの取り組み

  1. 配布図面理解と各回で何をするかの説明会
  2. ヒアリング参加者の人選と組織作り
  3. 共通ルールの周知と全体方針の発信
  4. ヒアリングでの課題と検討結果の見える化

1.配布図面理解と各回で何をするのかの説明会

部門別ヒアリングでは、室名と壁、扉、多少の器具や家具が記載された大きな図面を挟み、現場スタッフと設計者が対面で話をして、直接図面に修正点や要望を記載していく進め方が多く、基本設計、実施設計にて複数回行っていきます。

丁寧な設計事務所ですと、事前に図面や与条件のアンケートを配り、ヒアリングの最中に内容の確認をすると言ったこともあります。
ただ、これだけですと冒頭のスタッフ方々の様に、「要望と言ってもどの程度まで言えば良いのか?」など分からないことがあり、結果ヒアリングで初めて図面を理解して、その場で思ったことを言う状態となります。

おすすめしたいのは説明会の開催です。事前にヒアリング参加者へ各回でどの様な図面を出して、何を聞くのかということを他事例にて示すことで、設計の進め方と、設計者の役割が見えてきます。

説明会開催資料

説明会開催資料

第1回 ヒアリング

第2回 ヒアリング

第3回 ヒアリング

ご覧のように、各回で決めていく内容や図面に記載する精度が異なり、ヒアリングを重ねることで設計者が聞きたい内容も異なってきます。スタッフ側もそれがわかっていれば、部内での意見徴収もしやすくなり、ヒアリングに参加しても発言しやすくなると思います。

設計側も順を追って要望を確認することで、次回のヒアリングに向けての用意がスムーズに進み、その分検討時間を多く確保し、結果設計の品質向上を図ることができます。

2.ヒアリング参加者の人選と組織作り

「ヒアリング参加者は、どのように決めればいいでしょうか?」これもまた、よくあるご質問です。
組織や規模にもよりますが、まずは以下のような方々を検討してみてはいかがでしょうか。

  • 将来の新病院で部門を引っ張っていく中堅
  • 部門内での意見聴衆や設計者からの依頼に時間を当てられる若手
  • 病院全体の方針を理解したお目付役

こちらの方々を中心に3〜5名程度で1つのワーキンググループ(以下WG)をつくりヒアリングにのぞみます。

ヒアリングは対面で行うことが多いため、あまり大人数で参加しても意見が言いにくかったり、内輪の議論で時間を使い設計者の求める結論が出ないことがあります。
WGをどのように分け、いくつくらい作るかは計画規模や病院運営側の考えにより異なります。

トップダウン型が良いか、ボトムアップ型が良いか、自院の状況を踏まえ意思決定フローを決めておくことをおすすめします。
大規模な病院様であれば、WGの上に横断的な課題を検討して調整を図る部門会議を設けるなどの事例もあります。

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課題解決のための意思決定フローが構築されることで、スタッフ側も各WGでどこまで決めればよいのかわかり意見がまとめやすくなります。

冒頭の「いつまで経っても要望が反映しない」という意見は、実は全体方針と部門WG要望に齟齬があるため採用が見送られていただけかもしれませんし、他部門WGの要望と調整を取らないと決まらない項目なのかもしれません。
組織がはっきりすることで、要望の調整も楽になります。

3.共通ルールの周知と全体方針の発信

部門別ヒアリングには設計者だけでなく、事務局の方も参加します。
事務局の担当者様は、是非病院上層部の考えや全体整備方針を発信する役目を買って出てください。

新病院の計画では、健全経営のために拡充する部門も有れば、設備投資を抑えて現状維持の部門も出てきます。現場は最先端で最高の医療をしたいものですし、他部門より少しでも広い部屋が欲しくなります。

設計者は基本その要望に「NO」とは言えません。

しかし、要望が通ると思っている現場に後からダメだった、と大きな計画の変更を強いるのは時間と労力の無駄になりますし、何より不満がたまります。

設計初期段階では要望を吸い上げることが重要ですが、そればかりを続けていては、いつまでたっても計画がまとまりません。
全体で決めたルールや方針を病院側の人間が発信することで、各部門とも「それならば......」という代案や妥協案を真剣に検討してくれます。

限られた時間で最大の結果を出すためには、何がNGなのかをハッキリと明確にするべきです。

4.ヒアリング内での課題と検討結果の見える化

部門別ヒアリングは、朝から晩まで行っているケースもあります。
そのため、設計者は図面への書き込みと次の日の準備で忙殺されてしまい、議事録もすぐには記載できないケースも見受けられます。

結果、次のヒアリングで前回の課題がなんであったか、どう改善されたのかが分からず、堂々めぐりの議論になるケースがあります。

ヒアリングで残った課題は何か、検討を依頼した内容は何かということをヒアリング参加者や他WGメンバーが共有することはヒアリング成功の大きな鍵となります。
検討項目リストや課題管理表などのツールを用意することで、ヒアリングでの議論の深度がグッと深くなります。

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実は、ヒアリングでの対応の遅れや未決定事項のままうやむやになることの多くは、病院様のご回答がなかったことが原因ということがよく見受けられます。しかし、その原因を聞くと病院様としては「回答したい意志はあるのですが何をいつまでに回答したら良いかわからない」と言ったケースがほとんどです。

そうしたエラーを防ぐためにも、ヒアリングで出た課題、検討結果、そして、誰が・いつまでに・何をするのかの見える化を徹底してはいかがでしょうか。

部門別ヒアリングがうまくいっていないと思ったら

その他で部門別ヒアリングが上手くいっていないなと感じられる際は以下の問題が無いかを確認してみてください。

設計者とWGメンバーで意見が合わずまとまらない

病院設計に長けた設計者の中には、長いキャリアの中で培ってきた成功事例を基に、議論の結論を先読みし、計画に反映する傾向のある方が居たりします。
そうすると、その病院独特の"特殊な要望"が受け入れられ辛くなり、それによって計画がなかなかまとまらないといった場面を目にすることもあります。

そういった場合は、他病院の事例(できれば別の設計事務所が設計)ではどうなっているか聞いてみることも良いですし、想い描く理想に近い部門の写真を持参して聞いてみるのも有効かと思います。

設計者自身も他の知見が入り、考えが柔軟になり助かることもあります。

図面をみて何を考えたら良いのか分からなくなった

部門別ヒアリングは長丁場のため、当初は理想と合致していた内容が変更を重ねる中で崩れていくことがあります。
何かおかしい気がするが、何がおかしいのかわからない。そうした際は、以下の3点を注意して見て下さい。

  • 動線
  • ゾーニング
  • スペースの大きさ

動線

人や物がどう動くかについての、主に業務フローのことです。
動きに重複が少なく、一筆書きのような順路を実現している病院が、動線にムダがない病院と言われるものです。

確認のためにまず業務の内容を洗い出し、機能的にフローを整理し、そのフローを設計者に伝えることが重要です。
例えば外来での受付~問診~採血の流れや、検体をどう搬送するかの流れなど、病院毎の効率的で確実な動きというものがあると思います。

具体的には、そのフローを矢印にして図面に書いてみてください。
矢印があちこちで行ったり来たりしていないか、患者矢印とスタッフエリアが混じっていないか、矢印が途中で途切れていないかがポイントです。

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ゾーニング

部門毎もしくは外来と検査関連など諸室相互の関係や、近くに配置したい室の関係のことを指しています。
ゾーニングは、病院の特色が現れるところですし、設計の初期は諸室よりも、ゾーニングの配置を主に行います。

例えば、糖尿病センターを持つような病院の場合は、眼科の外来患者も糖尿病を併発しているため、眼科と採血等の検査関連が近い方が望ましいといったことや、栄養指導を健康診断のメニューに組み込むため、厨房を健診センターの近くに設け、栄養士の移動や実際に調理を行うなど、その病院毎の診療上のノウハウの蓄積があると思います。
また、手術部門でも、整形が多いのか呼吸器系や循環器系が多いのかで、画像診断関連の諸室との関係が変わってきます。器材庫の位置も器具の入替が煩雑なら、その位置はセキュリティー上業者が入ってこられる位置を考慮した配置になったりします。
こうした病院内の特徴を、ヒアリングで正確に伝えることが重要です。

スペースの大きさ

文字通り部屋の広さのことですが、医療機器や備品等の配置だけでなく、人・モノの動きも考慮して決める必要があります。
そのため、ヒアリングに際しては必要な機器を調べあげ、かつ1日の人の動きを まとめて設計者に伝えることが重要です。

レントゲンやリハビリのような部屋は、主要な機器の位置を明確にすれば、ほぼ部屋のサイズが決まりますが、スタッフステーションや検体検査室、薬剤部門、事務部門などは、机や収納などの細かい必要備品等を明確に洗い出し、 またスタッフの方の動きを的確に反映したレイアウトでないと、使い勝手の良いスペースとはなりません。

既存病院と新病院の各部屋の面積計画を設計者に記載してもらうことも良いと思います。

ヒアリングでは意見を言いましょう

竣工後、後悔を残さないために重要なことは、誰でも部門別ヒアリング中には意見が出しやすい環境を作ることです。
会議中は無言だったスタッフの方が、会議後の廊下で設計者を呼びとめ、実はかくかくしかじかと要望を個別に伝える光景を目にすることがありますが、こうした光景は合意形成のフローとしては好ましくありません、場合によっては他スタッフから不満が出てしまいます。

設計者に対しては、「配慮はしても、遠慮は不要」と思ってください。建築がわからないので、意見に自信が持てないといった遠慮は不要です。
希望の断片でも伝えることができれば設計者何らかの答えを考えてくれます。

是非、活発な議論をしてください。

部門別ヒアリングでの"活発な議論"が良い病院をつくる

活発な議論のためのポイント

ヒアリングの前に院内でショートMTG

現場のスタッフは、何を聞かれるのか、何を言えばよいのか不安があると思います。
ですので、その日検討する事項について、初めての設計者とのヒアリングの前に、事務局様とスタッフで5分でもショートMTGで話をすると緊張もほぐれ、話がスムーズになります。
また、横断的に様々なWGに参加している人が居れば、「あのグループではこんなことを話していたよ」ということを共有してあげるだけでも随分心持が異なるでしょう。

資料は紙で持っていきましょう

設計事務所からは配布される図面は最小限の枚数のみの事があります。ヒアリングに参加される方は是非コピーをもって参加してください。図面に鉛筆を走らせるだけで、いろいろ意見が出るものです。それをヒアリング後に設計者に渡すと、きっと設計者が次回までに思いを形にしてくれます。

ヒアリング全体の時間を意識しましょう

ヒアリング時間は、体験すると短く感じるかもしれません。しかし、きっとヒアリングで伝えたいことや、大事な部屋は決まっているのではないでしょうか。
大事な諸室を優先して、時には他の部屋を次回に回してでも話をするように、時間を意識してヒアリングに臨んでください。特に、事務局の担当者がタイムキーパーの役割を担うことができれば、一回一回のヒアリングが濃密なものになります。

時には病院幹部も参加を!

現場の熱気を感じることが出来ます。どの部門でも良いです、1度は現場のヒアリングに幹部の方が参加してみてください。

プラスPMにはこれまでの数々の経験から、病院建設に関する多くのノウハウがあります。
永く使い続けられる病院計画作成のお手伝いすることも「CM(コンストラクション・マネジメント)」の役割です。 新病院の計画・設計段階でお困りごとや不安がある際には、是非私共にご相談ください。


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