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病院建設

病院整備事業におけるコストマネジメント手法~機能とコストを両立するバリューエンジニアリング~

※2021.4.28 改定(2019.12.13公開)

「建設コスト」は全プロジェクトに共通する課題です。
設計を進める中で、様々な要望が盛り込まれ、いつの間にか大幅に予算を超過してしまい、「このままでは入札が出来ない」というご相談を病院様よりいただくことも多々あります。
院内議論を経て決定された設計内容を一から見直し、機能・規模を縮小することは長い時間・大きな労力が必要となり、事業がストップしてしまうこともあります。

そういった事態を避けるためのコストマネジメント、コスト削減手法の一つにバリューエンジニアリングValue Engineering ―以下VE)」があります。
今回は最近の事例をもとにVEを用いたコストマネジメント手法をご紹介いたします。

VE(Value Engineering=バリューエンジニアリング)とは何か?

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A案B案をご覧ください。

両案を比較すると建築費で数百万円ほど違う個所があります。
注目していただきたいのはカーテンウォール(ガラスの一枚壁)部分です。カーテンウォールは見栄えが良い建材ですが、大変に高価な材料です。
A案はデザインを重視した提案となっており、外部もすっきりとして、おそらく建物内部からも外が大きく見渡せる明るい空間となっているでしょう。

しかし、このカーテンウォールを施された室に長時間治療を受ける透析室や通路、スタッフの方の使う執務室が配置されていた場合はどうでしょうか。
透析室は解放感よりも温度管理や光量調整を重視した環境が求められる部屋のはずです。また通路や執務空間だった場合、部屋の解放感はもちろん大切ですが、本来は建築コストをかけすぎず、ランニングコストを抑えた計画が求められる部分ではないでしょうか。

そう考えた当社は、カーテンウォールの代替案として、腰壁を設置した上で、普及品の従来型のサッシュを採用するB案を提案しました。
結果、過剰な日射を抑え落ち着いた療養環境となり、且つ日射による室内の熱負荷も抑えることでランニングコスト削減効果も期待できる仕様となりました。

こうした機能面はそのまま(もしくは向上させ)イニシャルコストを抑える変更をVEといいます。

※詳細なVE手法の定義は巻末をご参照ください。

病院建築におけるVEのメリット

予算に収める取り組みとしてVEとセットで扱われる言葉に、コストダウンCost Down―以下CDがあります。

CDは、価値(性能)が下がることを前提に、コストダウンを目的に設計変更することです。
「VE」と「CD」この違いを意識せずにCD提案を多く採用してしまうと病院建築においては以下のような危険性があります。

過度なCDの危険性

例えば、

  • 一般撮影室(放射線室)を単純に減らしたことで将来の収益機能まで削ってしまい、新病院の経営に影響が出る
  • 外来診察室を減らしたことで提供すべき医療機能が縮減され、病院責任を果たせなくなる

このようなことになれば本末転倒です。
施設完成後に「医療機関」としての機能に不具合が出てしまうことはあってはなりません。加えて、機能を削ることで設計段階に様々なアイディアを出した院内スタッフからも不満が出るでしょう。

こうしたCDとは違い、病院建築のVEは下記のメリットがあると考えられます。

VEのメリット

  • 機能をあきらめるのではなく、必要な機能は残したままコストを下げることができる
  • 変更を通じてより高機能なものに性能向上ができる
  • 下げたコストを医療機能の充実にあてることができる

VEを効率よく活用することで、最適な計画、最適な工事費での発注が可能となります。
また、VE検討の過程は現場で働くスタッフと経営層の目線あわせの場となることも多く、本当に必要な機能とは何かを関係者が理解しプロジェクトを推進する一助となっています。

事例から見る病院建築事業でのVE

VE内容を実際の病院建築事業での事例をもとにご紹介いたします。

同じ機能のものをより安価に手に入れる

最適な発注方式の選択

「安価に手に入れる」というと、まず直接の価格交渉、値下げ交渉を思い浮かべるかもしれません。しかし、根拠なく価格交渉を行ってしまうと、品質が低下します。

そこで重要になるのが最適な発注方式の選択により価格を抑えるという事です。

単純な話ですが、例えば工事の発注を行う際、1社特命状態であればその発注には競争原理が働きません。数社が本気で競うことの出来る競争環境をつくることで、同じ機能の病院建物をより安く手に入れることができるのです。
当社が支援した実績の中では、競争環境の構築により最上位と最下位の価格差が30%に達することもあります。
発注先の建設会社のランク・規模・市況状況・発注時期により価格は変動します。また、同じ工事材料でも施工会社の購買力の違いにより工事原価に差が出ます。年末時期にどうしても売上高を上げたい建設会社は経費率を下げて金額を落として入札をすることもあります。
 このような諸事情を考慮しながら発注戦略を構築することで、コスト削減が可能になり、建設投資に対する価値向上が図れます。

普及品を使用する

公共建築では特定の規格を求められる場合があり、設計事務所の標準仕様もこれに習い設定されているケースが多く存在しています。
この規格を外すことで普及品を使用することが可能となります。もともとの材質は同じですので、普及品でも性能自体は変わりません。

より優れた機能のものをより安く手に入れる

施工者ノウハウの活用

一般的に高機能なものは高価です。
しかし例えば、施工会社独自の特許工法を採用することで、より安価に高品質のものが施工可能な場合はどうでしょうか。
特に比較的規模の大きな建物である病院を建設する施工会社には独自のノウハウを持つ会社も多数あります。
最近の事例では、柱と柱の間隔を設計図より2倍広くして、柱本数やその下部に設置される杭本数を半減すことで躯体量を減らし、1億円を超える削減効果があった案件もあります。
診療空間を広く確保したい、可変性を確保するために動かせない柱は極力少なくしたい等の要望にも適した提案となっています。

機器の組み合わせを整理する

病院建築のエネルギー消費量は他の用途と比較し圧倒的に高く、設備機器も大規模、大容量のものが複雑に組み合わされています。
ある病院様の新築計画で、100kWの設備設計がありました。
図面では25kWの機器を4台設置するとしていましたが、35kWの機器を3台設置することを提案しました。

結果、100kWから105kWに総容量は増えたにも関わらず、コストは機器台数が減ることにより微減しました。
設備計画は総容量に対する適正化のみで設定されがちですが、機器の組み方次第ではその価値を更に向上することが出来ます。

専門工事会社を使う

専門工事会社は一品生産の建築においても型式を持ち、信頼性が高い製品を在来工法に比べ安く供給できる利点があります。

例えば、階段を専門に作成している会社があります。
病院建築であれば普段は使われない避難用だけの屋外階段が設置されている場合が多く、これらを設計事務所が設計した在来工法の仕様を元に作るのではなく、専門工事会社の仕様を用いることでより品質の信頼性があがり、性能も確保された階段となります。且つ、階層によりますが1か所あたり500万円程度の削減を見込める場合があります。

多少コストは上がっても、それ以上に優れた機能を手に入れる

地震や水害等の災害時の事業継続性確保に力を入れる病院様が増えています。

例えばある病院では、当初災害発生後3日間の平常稼働を望んでいましたが、設計が進むにつれより強力な災害対策を講じることで地域に貢献したいという思いが強まり、災害発生後7日間の平常稼働を望まれるようになりました。そうなると非常用発電機の燃料タンク容量も当然上がりますので、それに伴いコストも上昇します。

様々な検討の結果、新病院建設計画の理念の1つである「災害対策の強化」を実現することを決定され、多少コストをかけてでも優れた機能を獲得することを選択されました。
これもVEのひとつです。

昨今、感染症対策について計画に盛り込むべきかという議論をするケースが再整備計画を立てている途中の病院様で増えています。
当然コストはあがるのですが、今後、院内感染や感染症受入が発生した場合に地域に対しどういった医療を提供できるのか、経営に対しての影響をどう抑えることができるのかなど、価値とリスクを考えると事前に対応可能にしておくことも考えなければなりません。

コストをかけてでも優れた機能の獲得が必要か、十分な検討が求められます。

事例から見る病院建築事業でのCD

CDとは、基本的には機能や性能を落としてもコストを下げることです。床面積の削減や、居室の削減、設備の取り止めがCDに当たります

先にご説明したように建設費抑制のためにCDを繰り返すことは、病院建築という計画を考えた時、好ましくない場面の方が多いでしょう。
しかし、そうは言ってもVEのみでは事業費を抑制することが困難な場合も当然あります。

そこで、当社ではCDによる影響と得られるコスト削減効果を比較して採否を行うようにしています。
事例を2つご紹介します。

床面積の削減によるCD ~動線計画の適正化~

基本設計段階で、設計事務所の描くプランになかなか納得できずに当社にご相談をいただいた事例です。
病院様スタッフからの様々な要望を計画に盛り込むことで部屋が増え、廊下が長くなり床面積が当初計画より増大していました。床面積が増えれば、当然建設コストが上がります。

当社で複雑に交錯し長くなった動線を整理した結果、廊下面積や歪な形の部屋がなくなり、大きな面積の削減が可能となりました。
併せて、廊下などの面積に圧迫され地下に配置せざるを得なくなっていた厨房を地上に計画することが可能となり、コストが割高な地下部分を取り止めることが可能となりました。
面積の削減は、基本的にはCDに当たりますが、無駄な部分を抽出し、医療機能に関わらない部分を削減することは骨太な病院計画を作成する点では良いCDといえるでしょう。

不必要な設備の取り止めによるCD

閑静な山間部で建替えをされた事例です。
病院建築では屋上に沢山の設備機器が設置されることが多く、見栄えに配慮し目隠しルーバーを設置することが一般的です。騒音規制のかかる地域では、近隣への防音も必要となることから、設計初期にとりあえず盛り込んでおくことが通例です。

設計後期になり予算との乖離が見えてきた段階で図面を見せていただいたのですが、改めて条件を見直すと防音の規制は最低限、さらに背面、方側面は山に面していることがわかりました。周辺道路からの見栄えを気にしたとしても、背面と片側面は山ですので四方でなく二方向にあれば足りる状況でした。

屋上のフェンスと支えとなる鉄骨柱の半分を取りやめることを提案し、見栄えは確保した上でコストを削減しました。
本当に必要な機能以外のものを見つけ、削っていくこともコスト削減の上では重要な取り組みです。

適正なVE/CDで品質・コストのバランスを実現

病院は、他の建物用途に比べ機能が複雑であり、そこで働くスタッフもそのほとんどがスペシャリストであるため、それぞれに要望も多くコストが増加し、結果予算超過となってしまう計画が多数存在します。
予算の超過を起こさないためには、特にVEを理解することで、数百個以上のコスト削減項目に優先順位がつけやすくなり、全体のコストバランスが保ちやすくなります。
病院様が建設投資の価値を最大にするため、VEを様々な角度と切り口から考え、費用対効果を検証し、最適な手法を選択していくことが非常に重要です。

「仕様とコストを両立し、価値を最大限高めた病院整備事業を実現したい」けれどもなかなか上手くいかないとお考えの場合には、是非プラスPMにご相談ください。
プラスPMは、病院様が建設投資の価値を最大にするため、病院建築に精通した建設技術者の技術力と知恵により、品質・機能を落とすことなく、確実に病院様にとって『価値向上』につながるコストマネジメントをご提供いたします。

【参考】VE手法の定義

VEは日本語で「価値工学」と訳され、

社団法人日本バリューエンジニアリング協会によれば、
"製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、システム化された手順によって「価値」の向上をはかる手法である"
と定義づけられています。

産能大学総合研究所VMセンター著「VEの基本」では、上述の価値向上の考え方を、価値(Value)=機能(Function)/費用(Cost)という指標で示したうえで、価値を向上するための手法として、次の4つを示しています。

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