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病院建設

10日間で完成した武漢「火神山医院」に関する技術考察と「各国の取り組み」

当社が中国の武漢の病院について写真や動画を元に建築計画を分析したものが記事に纏められ、日経クロステック(2020年3月23日付け)日本経済新聞電子版(2020年3月27日付)に掲載されました。

今回は、技術考察に加え、火神山医院(かしんざんいいん)建設プロジェクトを成功に導いた要因について解説します。

関連記事:国内初の公立仮設病棟!180床を68日で稼働した建設プロジェクトの全容

10日間で完成した武漢「火神山医院」についての考察

まず、本記事は以下を前提にしていることをご承知ください。

  • 考察はすべて報道写真・動画より推測、想定を行っています
  • 文中の規模に関する表記は、画像内に映る重機などとの比較からユニットハウスの大きさを想定、日本国内で流通する規格サイズと同程度であると仮定し、それにより全体の規模を算出しています
  • 参考サイトに関しては、最後にまとめて掲載しています

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中国だからできた?「ユニットハウス」造りの大規模病院

では、想定延床面積3万3900㎡、約1000床規模の大規模病院を如何にして10日間で建設し、運用まで運んだのかを考察していきます。

まず、中国の報道によれば、武漢での病院建設計画が立ち上がったのは、2020年1月23日です。この日は、旧正月前の大晦日にあたり、多くの中国人が故郷へ向け大移動をしている1年でも最も人の動きが激しい日でした。

その様な中、何十人もの建築士が武漢に召集され、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)への対応として建設された「小湯山医院」の図面を元に、72時間で設計を完成させました。
また、それとほぼ同時に必要とされる建設工事用重機の段取り、搬入が開始されました。

つまり、計画が発足した時点で土地の手配に始まり、設計から工事に関わる全ての手はずが滞りなく整っていたということです。

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そして、同日の夜には、土地の高低差を均すための土工事に着手していました。

建設予定地は、インフラの敷設、建設労働者の移送、重機や資材搬入、5Gへの対応などの理由から都市近郊に選定されたとみています。衛星写真でも、現地から極近い範囲に住宅地の影を見ることができます。

日本の場合ですと、土地の選定、特に感染症患者の隔離用病院の建設となればその土地を選定・取得するだけで何年もかかってしまうかも知れません。まさに緊急国事対応時における中国政府ならではの強力な力、凄まじさが表われています。

施工開始

土工事が進行し、4日目には基礎コンクリートの打設が始まっていたことが衛星写真からわかります。
基礎はセメントの種類、配合や気象状況にもよりますが「あくまでも仮設的な施設であり、長期的な運用を見込まない」前提であれば、打設から12~15時間程度で上物の施工に移ることが可能です。

この「あくまでも仮設」という表現は、今回の工事工程では杭工事などがされていないことや、基礎コンクリート打設後の工事工程が最短時間で組まれていることから、多少の地盤沈下やそれに伴う傾きは重視せず、当初より長期間の運用は想定していなかったと考えられるからです。

そして着工から5日目の1月27日には病棟の建設に着手しています。
搬入されたユニットハウスは、縦横比が2対1となる4.8m×2.4m(日本の標準規格と同様)と類推しました。

ユニットハウスという言葉に馴染みのない方は、工事現場などにある仮設事務所を想像してもらえれば、間違いありません。
壁と天井、床、そして四隅を支える梁、これをたたんだ状態で搬入し、現地で組み立て、クレーンで積み上げる。工法は至ってシンプルです。

一部(おそらく事務棟)はプレハブで屋根にトラス状の下地を付けただけの仮設ハウスを使用していますが、これも工業製品であり、部品を運んできて、現地で組み立て繋げたものです。
航空写真を確認する限り、火神山医院は2階建て、事務棟部以外で13棟の施設が確認できるので、病院全体で1000床だとすれば、およそ40床の病棟が26病棟あると考えられます。

施設の形状にも工事を円滑に行う工夫

病棟が櫛の歯状に配置されていることにもいくつかの理由があると考えています。

  1. 病棟間の離隔確保
  2. 外部からのメンテナンス容易性の確保
  3. スタッフへの感染防止
  4. 作業の効率化

です。

ここでは、特に「4.作業の効率化」について記述します。

下の図を見ていただけるとわかるように、病棟と病棟の間におよそ9.6mの通路を設けています。

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建設会社はここにクレーンを入れ、複数個所での同時施工を可能にしたのでしょう。

10日目の開院時に完成したのは8病棟なので、昼夜を問わずの工事に加え、複数個所同時にクレーンを配置しての楊重作業を行い、5日でおおそよ648ユニットを組みつけた計算になります。
また、開院後にも増築の工事を続けていたことや、公開されている画像から考えるに、外側のユニットハウスは設備関連の通り道になっていると想定できます。

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写真から見て取れる病院内部の考察

建設時の動画を見る限り、院内にはエレベータの設置はありません。代わりに2階に患者を搬入するために、外部にスロープが設けられている箇所が確認できます。

急ごしらえの病院に最低限の設備や性能が備わっているか、疑問を持つ方もおられると思いますが、日本の建築現場でもユニットハウスの現場事務所が使用されていることを考えれば、気密性の部分は担保されていると言えます。加えて、火神山医院では病棟に窓を作らないことで気密性を更に上げ、ダクトからの排気を十分に行うことで必要十分な陰圧は確保しているのでしょう。

プロジェクト成功のカギは「中国」という特殊性?

これまでの考察を整理しますと、10日間で病院建設を可能にした要因は大きく2つあると考えられます。

超法規的な決断実行力有する国家体制

まず、第一に言えることは、「中国」という国の特殊性でしょう。

ご存知の通り、中国はアメリカに次ぐ世界第2位のGDP生産量を誇る超大国です。豊富な労働力を背景に、資本主義経済の優れた競争環境にも劣らない高い生産力を生み出し、他国に頼ることのない自国内によるモノの調達を可能にしています。

そして最も重要な点は、その資本主義にも似た経済を統率しているのは中国共産党であるということです。このことにより前述したように緊急国事対応時における中国政府の絶対的な指導力が発揮できるのです。

用地、労働力、重機、資材、そして医師と医療物資を揃えるため、緊急事態を前に、ある意味では臨機応変に法律や規制を大幅に緩和できる柔軟性があることが、今回の迅速な施設建設には不可欠だったことは言うまでもありません。

現代中国の建設特殊事情

しかし、どれだけ絶対的な指導力があり、高い調達力があったとしても、そもそも今回のプロジェクトに必要な特殊資材が無ければ集めることはできません

ここでもう一つのキーワードとして、昨今の中国の建築事情があります。

中国では2016年より「プレハブ建築」普及を国の政策として目指しており、2016年2月25日には中共中央と国務院より「都市計画建設管理業務の一層の強化に関する若干の意見」を発表、その中に約10年以内のうちにプレハブ方式を使用した新しい建築物の割合を30%にまで引き上げることを目指すと記載しています。

プレハブ方式の建築モデルは環境に優しい建築資材や生産工程を用いることが可能で、粉塵汚染や建築ゴミを効率的に減少させることも可能となる。また大量生産により低コスト化と労働力の削減を可能にし、工期も短縮することが可能となる。その上、部材を標準化に基づき生産するため、その部材の品質も保証される。

プレハブ建築は新しい建築施工方式であり、その長所の多さは伝統建築と比較にならない。現代建築は急速な発展の時代となっている。大胆に発想の転換を図り、日本などの国々の有益な経験を活かし、さらに多くの人と資源をプレハブ建築の研究発展に投入し、プレハブ建築を現代建築業発展の主流とし、人々にさらに安全で、環境に優しい居住空間を提供していく必要があるだろう。(提供/人民網日本語版・翻訳/TG・編集/武藤)

Record China 2016年2月27日『「プレハブ建築」普及を目指す中国、日本の建築に学ぶ』記事より引用

このようにプレハブを多用した建築構造が今や一般的である中国だからこそ、今回のプロジェクトに適合する部材やユニットを超短期間で確保することが可能となり、プロジェクト成功の大きな一因になったと考えられます。

真にプロジェクトを成功に導いたPMrの存在

超法規的な決断実行力を有する国家体制現代中国の建設特殊事情、この2つの要因だけでプロジェクトは成功できたのでしょうか?

多くの関係諸官庁、ステークホルダーが混在し、喫緊の国事対応、その上でさらに適格な計画進行が求められる場合においては、プロジェクト全体を鳥瞰的にマネジメントし、円滑な進捗のための入念なシナリオ形成が出来るダイレクター、つまりPMr(プロジェクトマネジャー)が必要です。

いつ、どこに、どれくらいの、何が必要か。手配に要する手続きや連絡、協議を行う機関はどこか。いつまでに、何を決めなければいけないのか。

プロジェクト開始時に、これらのことが決まっていなければ、どれだけの超法規的決断や人員の動員を行ったとしても、スムーズに現場を進行することはできません。

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まず、PMrの存在があり、そこに上記2つの要因が合わさることで今回のプロジェクトは成功したと言えるでしょう。

各国の取り組み

ここまでは、中国の仮設病院対応につき武漢「火神山医院」の例を考察してきましたが、ここでは、他国での仮設病院対応についてご紹介したいと思います。

イギリス「NHSナイチンゲール病院」

イギリスでは、2012年のロンドンオリンピック会場(ExCelセンター)を仮設病院として活用し「NHSナイチンゲール病院」と名付けました。
ExCelセンターの広さは約87,000㎡です。武漢の火神山医院とは違い、既存の大空間施設を利用し、その内部をパーテーションで仕切り、仮設病院に作り替えています。

パーテーション工事は野戦病院さながら9日間で完成し、イギリス軍が参画し民間企業と協力し建設にあたったようです。
内側は2区画に配され、それぞれ2,000床で合計4,000床もの病床が確保できています。また、人工呼吸器は500個設営されているようです。

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HAFFPOST 2020年3月30日掲載記事 「イギリス・新型コロナ感染者治療のために、元オリンピック会場を仮設病院として活用へ」でも詳しく紹介されています。

マレーシア「MAEPS仮設病院」

当社のマレーシア現地法人 Plus PM Consultant Sdn. Bhd. からの情報では、マレーシアにおいてもナイチンゲール病院と同様に、既存大空間施設を作り替え仮設病院を設営したとの事です。
MAEPSというマレーシア最大のコンベンションセンターのホールAとCの合計13,200㎡を利用し、ムヒディン首相が計画を決定した日から、わずか4日間でホールAの400床を稼働させたとのことです。
また、マレーシアでは同様の仮設病院を全国90ヶ所で計画しており、およそ4万人の収容が可能になるようです。

まとめ

ここまで、「10日間で完成した武漢「火神山医院」のユニットハウスによる建築について、考察をしてきました。

前述しましたように、プロジェクトの成功は中国ならではの国情を無視することはできません。しかしながら、もしも日本において中国ならではの特殊事情という問題が解決できるのならば、技術的には日本でも実現可能と考えます。

なぜなら日本には、鳥瞰的なプロジェクトのシナリオ構成ができ、適格なディレクションの指示に長けたPMrが存在し、また多くの難解な建設プロジェクトを成功に導いてきた世界的にみても高い技術力をもつ技術者も数多くいるからです。

私たちは今後も、未知のウィルスによる感染症流行リスクや大震災などの被災リスクを想定し、建設的知見から、いざという時早急に仮設病院建設を行える準備しておく事が重要であると考えます。
また、その早急な対応が医療現場の崩壊を防ぐものと確信しています。

参考資料


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