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病院建設

はじめての病院建設〈公立・公的病院編〉

公立・公的病院の建設プロジェクトは様々な理由から始まります。

建物の狭隘化・老朽化により、とにかく早期に建て替えたいという病院幹部の思いもあれば、経営不振の原因は建物にあるという考えから提案されることもあるでしょう。
一方で、地域医療構想・医療計画への適応を目指すこともあれば、病院統合・再編の実現を模索する場合もあることと思います。
以上のように病院建設・再整備の理由は様々あり、当社へのお問い合わせ内容も多岐にわたりますが、どのご相談にも共通するのは「プロジェクトをどう進めたらいいのか分からない」ということです。

今回は、公立・公的病院の建設にはじめて取り組み、特に「建設」という事業自体がよく分からないまま大きな建て替えプロジェクトを担うことになったご担当者の皆様に、建設プロジェクトの大まかな進め方と各段階での注意点について解説します。

基本構想:建設事業の理由と事業のゴールを定める

その建設プロジェクトを今行わなければならない理由は何か

病院建設プロジェクトの最初に策定する、事業の基礎になるものが「基本構想」です。
この基本構想の内容は、公式・非公式を問わず様々な場所で発表され、様々な承認が必要になります。議会・理事会・公聴会・委員会...あるいはニュースに至るまで、多数の耳目を集め、議論の対象になるでしょう。

7~9割は赤字経営という研究結果もあるのが、公立・公的病院経営の実情です。非常に厳しい経営環境の中、この建設プロジェクトを「なぜ」今行わなければならないのか、どうしても必要なことなのか、誰が聞いても納得できる理由が必要になります。

病院スタッフにとっては、現状で不足している機能や設備があることでしょう。しかしながら、今日の病院経営を取り巻く環境を考えると、病院側の要望だけで高度すぎる医療機能を整備し、スタッフも集まらず、患者も少ないような病院を建設することはできません。

まず、地域の中での現在の病院の課題を明らかにし、将来のあるべき姿を予測することが必要になります。病院建設プロジェクトは今の病院をその地域に求められる病院として、理想の姿に生まれ変わらせるために必要なのです。

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現状・課題の分析と把握

現状と課題を分析し、把握することも重要です。
具体的には、外部環境の分析として、医療政策の動向や当該医療圏における人口動態と医療提供体制の状況を把握し、将来の医療需要を推測します。内部環境の分析としては、現在の診療体制や経営状況の把握・分析を行います。

この2つの環境分析から、病院がこの地域で果たすべき役割を明らかにします。そしてそれは、現在の病院建物のままでは果たせない役割になっていることでしょう。
ここに、新病院建設プロジェクトを今行わなければならない理由があります。

事業のゴールを定める

現状の課題の分析と把握を行った後は、今回の建設プロジェクトのゴールを設定します。

「どのような病院を」「どこに」「いくらで」「いつまでに」を病院の事業計画として設定します。その中でも重要なものが、課題から導き出された「どのような病院を」になります。

現場で働く医師をはじめとした病院スタッフとしては、最新の設備や医療機能を整備したいという思いや要望を抱くのも当然かと思います。しかし一方で、外部・内部環境分析から導かれる、地域に必要な医療機能や患者が求めている設備は、必ずしも病院スタッフの要望とは一致しません。

病院スタッフも、地域の人々=患者さんのためを思っての要望でしょう。しかし当社は、地域の人々に対する病院の最大の貢献は、病院が存在し続けることだと考えています。よって、医療需要に即した医療機能を持つバランスの取れた病院とすることが必要です。

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また、それを「いくらで」建設するのかも重要です。病院建て替え基本構想では、同規模・同機能の病院を参考に設定した面積単価を計画面積にかけ合わせ、予算を算出することが多いように見受けられます。

予算算出には、一つ注意点があります。建設費は、景気や建設需要によって日々変化しています。例えば、建設単価が急上昇している局面では、3年前の単価をそのまま採用して予算を設定した場合、不調・不落になるでしょう。
このような不調・不落を防ぐためには建設費の変遷を把握して予算を設定する必要があります。
1年間で建設費が2~3%上昇するということも過去に起こっています。数年間建設費が上昇し続けると、当初より10%以上の上昇となることも起こりえます。よって、過去の単価をそのまま予算設定の際に採用するのはリスクが高いと言えます。建設環境の変化を把握し、的確に予算を設定するようにしていただきたいです。

また、「どこに」「いつまでに」も重要かつ設定が難しい問題です。現在の病院の状況に加え、政治的な判断がなされることが多い部分です。

基本計画の策定:新たな病院の機能を定め、事業収支を予測する

新たな病院に必要なスタッフ、建物、設備を明らかにする

基本構想が策定され事業のゴールが承認されれば、次は基本計画の策定となります。ここでは、基本構想で明らかになった「新病院が目指す病院の姿」や基本方針を元に、新たな病院が担うべき役割と医療機能の詳細を定めます。そしてその実現のために必要な人員や、建物としての広さや設備を設定していきます。

具体的には、病床数と病棟構成、全体の広さ(延床面積)、施設の全体構成や構造、災害時にどのような役割を担いどう備えるのかなどを検討します。

病院を構成する部門をそれぞれ、より具体的に計画する「部門計画」もあります。例えば外来、救急、手術、検体検査、画像診断、リハビリなど部門は多数あり、その構成は病院の特色が表れるものになります。

また近年の病院では、医療機器、情報システム、外部委託、物流計画の方針で病院が大きく変わります。病院全体の計画をする上で、これらを一つ一つ具体的に検討することが必要です。

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事業収支を予測する

病院建設費と構造型式から算出される償却期間、スタッフの種別と人員配置計画から算出される人件費、医療機器や情報システムの導入・更新・メンテナンス費用、外部委託費などが明らかになれば、将来の事業収支をシミュレーションすることが可能になります。

この段階で数十年先までの事業収支シミュレーションを行い、無理のない計画になっているかを確認することが非常に重要です。そして、その計画は希望的観測を加味した与条件にしないことがポイントとなります。
例えば、新しい病院になって新しい設備が増えれば、遠方からでも沢山患者さんが来てくれると想定し、想定患者数を増やしたりすることがこれに該当します。当社は経験から、新しい病院は確かに患者さんが増える傾向がありますが、期間的にも人数的にも限定的だと考えているためです。

多様な発注方式 経験豊富な設計者の確保

建設事業には、おおまかには設計者と工事施工者が必要になります。設計と工事施工をどのような会社に依頼するかは様々なバリエーションがあり、それを発注方式と呼んでいます。発注方式には例えば、

  • 設計・施工分離発注方式
  • 設計施工一括発注方式(デザインビルド方式-DB方式)
  • ECI発注方式(Early contractor involvement 方式)

などがあり、それぞれに特徴(メリット・デメリット)があります。

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発注方式により、基本計画後の病院建設プロジェクトは大きく姿を変えます。選択のポイントは、病院建設事業の品質・建設コスト・事業スケジュールという重要項目において、何に最もプライオリティを置くかということです。

特に建設コストが上昇し、建設資材の納期が長期化している状況では、予定通り事業を進捗させるため、発注方式の検討が非常に重要です。検討が不十分な場合、事業スケジュールの延期や不調不落のリスクが高まります。事業のフェーズが進むと選択できない発注方式もあるため、発注方式は早期の決定が望ましく、遅くとも基本計画段階で決定する必要があります。

設計段階:合意形成と客観的根拠に基づく意思決定、病院スタッフにも経営感覚を

ボトムアップとトップダウンを両立させた合意形成

病院建物はフルオーダーメイドの一品生産品です。設計段階では、多数の選択肢の中からただ一つを選ぶことが繰り返されます。そこで重要になるのが合意形成の方法です。

病院は経営幹部、医師、看護師、技師、薬剤師、事務、その他非常に多数かつ多職種のスタッフがいることが特徴です。経営幹部だけで設計内容を決定すれば、現場のスタッフには使いにくい建物となり、クレームが出ることでしょう。
一方で病院スタッフの意見だけを活かすと、どうしても面積が過大になる傾向があるため、建設費が増大し経営的に成り立たない建物になってしまうことも多々あります。

病院建設にとって最適な合意形成方法とは、トップダウンとボトムアップの両方の視点を取り入れたものだと考えます。病院建設の基本理念や経営上重要な視点・指標に関連するような部分については、トップダウンで決める必要があります。またそれとは別に、現場の意見を吸い上げるボトムアップの仕組み構築が必要になります。
ただしボトムアップ型で吸い上げた意見は部分最適化であり、全体で最適とは限りません。様々な意見の中で最終的に判断するのはトップです。トップの掲げる大きな方針がぶれないよう、注意が必要です。

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客観的根拠に基づく意思決定

医療の場である病院において最も重要なことの一つは、やはりエビデンス(根拠)であると思います。皆様の病院でも、エビデンスに基づいた医療を行われていると思います。これは設計でも同じです。

病院スタッフの意見は、現在の病院と比較して、あるいは設計図面を見たイメージで、「狭い」「もっと部屋が必要」といったものになりがちですが、必要なのはデータです。

当社は病院建設に特化したCM会社として、独自のデータベースを構築しています。例えば透析室の大きさはどうやって決めるのでしょうか。実はそこには標準的な指標(ベッド当たりの面積、ベッド間隔の標準寸法など)が存在します。その指標と比べて、特に重きを置く部門は拡大したり、そうでない部分は縮小したりして、根拠を持って意思決定を行うことが重要です。

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設計段階のコストコントロールの重要性

設計の初期段階において、建設コストの80%程度が決まると言われています。病院の規模や基本的な構造、機能などがここで決まるからです。

まずはこの設計の初期段階に建設コスト概算を算出し、建設予算に見合っているかを検証することが重要です。ここで大きく予算と乖離していると、設計が進んだとしてもまた手戻りが発生してしまいます。建設市況を踏まえ、この段階で精度の高い概算を行い、計画と予算との整合性を確認しながら進めます。

また設計変更を行うと、一般的にコストが増加する傾向にあります。設計変更によるコスト増加分を相殺するため、他の部分の設計変更による減額を行い、全体のコストを調整します。例えば、ある部門のからの要望で、面積が100㎡増えコストが3,000万円増加したならば、その他の部分で全体面積を100㎡減らし、コスト増減を±0としながら進めていくのです。この段階でのコストコントロールを適切に行わなければ予算オーバー、不調・不落が起こり、プロジェクトが止まってしまいます。

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病院スタッフに経営感覚をもってもらうチャンス

設計の内容によって、病院運営に必要なスタッフ数や得られる診療報酬、各種委託費やメンテナンス費といった、今後の病院経営に大きく関わる費用が変わります。設計段階は、病院の各スタッフに経営感覚をもってもらうチャンスともいえます。

建設プロジェクトには、非常に多くの病院スタッフの協力が不可欠であり、忙しい本業を行いながらプロジェクトに関わっていただくことになります。一方で建設プロジェクトは各スタッフにとって、自己の部門だけでなく自院の他部門へ関心をもち、更に病院全体へと視野を広げていくチャンスでもあります。
当社の支援する病院様には、今後の病院運営を担う人材に一定の責任を持たせる形で、積極的に建て替えプロジェクトに関わっていただくことをご提案しています。次代を担う人材が経営感覚を磨くチャンスとして、建設プロジェクトを活かしていただければと思います。

成功する病院建て替え計画とは

発注者の立場で建設プロジェクトをマネジメントする存在

ここまで、病院建設プロジェクトの簡単な概要をご紹介しました。重要なことは、まずプロジェクトの基礎である基本構想を構築し、実行可能で精度の高い基本計画を作成することです。

次に、基本計画で策定した『建設予算』、『事業スケジュール』、『発注者の求める設計品質』を厳守しながら設計及び工事施工を行い、基本計画を実現させることです。

このように病院建設プロジェクトを確実に進めて行くことは、非常に難易度が高くなります。

プラスPMは、国内でNo.1(1)の病院CM実績をもち、その経験を活かしながら発注者の立場に立つプロとして、建設プロジェクトを一貫して支援しています。
病院建設プロジェクトでお困りのことがありましたら、どのようなことでも当社にご相談いただければと思います。

 2019年 東京商工リサーチ調べ


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