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【連載 第5回(最終回)】施設整備における建物の機能と建設コストの適正化~プロセスの透明性の担保~

本コラムは、特定非営利活動法人 学校経理研究会 発行の『月刊 学校法人 2022年4月号』に弊社が寄稿した記事を再編集し、掲載するものです。

昨今、学校法人は学費の使い道についてより一層の説明責任が求められています。施設整備は大きな投資を伴うことから、その透明性の担保と説明責任は、学校経営において非常に重要な要素です。

そこで、連載 第1回から数回の寄稿を通し、建物に求める機能と投資する建設費の適正化を図る手法と、プロセスの透明性を担保するために必要な手続きについての解説をしています。(図表1 )。

今回連載 第5回では、建設事業の終盤である工事段階と開設準備段階において、建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するために重要なポイントを解説し、連載の最終回とします。

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図表1:建設事業のステップと連載の構成

連載 第1回
連載 第2回
連載 第3回
連載 第4回



ここまでのおさらい

連載 第1回では、プロジェクトの進捗とコストの確定度を解説し、建設コストの60%を決定する「基本計画段階」での重要ポイントを解説しました。また、建設コストを決定する主な要因は「建物の規模」「発注方式の工夫」「建物の仕様」の3点であることを解説しました(図表2)。

連載 第2回では、建設コストを決定する主な要因の一つである「発注方式」をテーマに、発注方式を構成する4つの要素「契約方式の種類」「競争参加者の設定方法」「落札者の選定方法」「その他の工夫」を適切に組み合わせ、事業の性質に応じた発注方式に工夫することが、大きなコスト削減に繋がると同時に、事業の透明性の担保と説明責任を果たすことを解説しました(図表3)。

連載 第3回では、設計者、施工者選定の種類と選定の流れを解説し、巨額の投資を伴う施設整備の「発注段階」において建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するためには、「参加しやすい参加要件の設定により競争環境をつくること」「適切な選定評価基準をつくること」「選定の過程と結果を公表すること」が重要であることを解説しました。

連載 第4回では、設計段階においてよく起こる問題と原因に触れ、建設コストの適正化とプロセスの透明性担保のためには、「建設コストの適切な初

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期設定と随時更新」「外部環境を踏まえた予算設定と更新」「設計中の継続的なコスト管理と予算に合致した設計内容への調整」が重要であることを解説しました(図表4)

図表4:コスト推移の可視化

工事段階のポイント

1.工事段階で行うこと

工事段階でのポイントを解説するにあたり、まずは、工事段階で行うことについて解説します。
工事段階は、建築確認*(注1)を受けた実施設計図面の通りに、実際に建物をつくっていく段階です。発注者である学校法人が行うことは、建設会社との打合せを通して、建物の細かな品質や運用に問題がないかを最終確認することです。

*(注1)建築確認:建築基準法に基づき、行政庁の建築主事又は民間の指定確認検査機関が、建築物の計画が建築基準法令や建築基準関係規定に適合しているか否かを工事着手前に審査する行政行為

2.建設コストとの関連性

図表5は、プロジェクトの進捗とコストの確定度を示すグラフです。基本計画完了時にコストは60%確定し、実施設計完了時で96%確定します。
本章 1.工事段階で行うこと で述べた通り、工事段階は建築確認を受けた実施設計図面の通りに建物をつくっていく段階であるため、コストはほぼ確定していますが、「設計変更による追加費用」に最善の注意を払う必要があります。

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図表5:プロジェクトの進捗とコストの確定度

3.工事段階で良く起こる問題と原因、対策

①工事段階で良く起こる問題

工事段階で良く起こる最も厄介な問題は、前章 2.建設コストとの関連性で述べた、「設計変更による追加費用」を建設会社から請求されることです。

着工前の段階では、コストがほぼ確定している状況での工事段階の追加費用に、イメージがつきにくい発注者が多いのですが、実際には、竣工間際になって建設会社から追加費用の請求がある事例が殆どです。数百万円から、建物規模が大きい場合は数千万円もの請求がされることもあります。

当社のお客様でも、過去に専門家を入れなかった工事では、工事契約金額の10%にものぼる追加費用が発生したという法人もあります。当社のような専門家が入る工事でも、ほぼ100%の工事で工事中の追加が発生しており、工事契約金額内で竣工を迎えるために、様々な工夫をしています。

上記からも、工事契約金額内で竣工を迎えることは非常に難しいということがお分かりいただけると思います。それではなぜ工事段階で追加費用の請求が起こるのでしょうか。その原因について、次に解説します。

②追加費用が発生する原因

工事が進み、建物が具体的に見えはじめると、設計段階でのイメージ図や図面では気付かなかったこと、検討しきれていなかったことに多く気付きます。
発注者はその都度、設計会社や建設会社に相談し、当初設計の見直しや再検討を行いますが、追加費用が発生する原因は、変更を検討する際に、以下の2点について、発注者、設計者、施工者で合意されないまま工事に着手してしまっていることにあります。

  • その変更に費用がいくらかかるのか
  • かかる費用は追加として支払うのか、別の変更で減額して当初契約金額内で処理するのか

上記を都度整理して合意しておくことは簡単なことのように見えますが、実際に工事が始まった現場では、変更の都度費用を算出する時間的な余裕はありません。変更の都度工事を止めて検討をしていては、工期遅延の原因にもなります。そのため、費用の調整が後回しになり、それが積もり積もって竣工間際に大きな金額で追加請求されます。

発注者側の意識に原因があることもあります。工事段階は、建設会社と既に工事請負契約の締結が済んでいるため、契約後に設計内容を変更したり、追加工事を依頼すれば、発注者に起因した追加費用は、本来、当然に発注者が支払う必要があります。ただ、建設工事は契約金額が大きいため、何億円もの工事費の中で、そのくらいの変更は既契約の工事金額の中で建設会社が持ってくれて当然だろうという意識が無意識に働いていることがあります。それでは費用がいくらあっても足りません。

追加費用の請求を起こさないための具体的な対策について、次に解説します。

③追加費用請求を起こさないための対策

具体的な対策を2つご紹介します。
一つ目の対策は、工事期間中に設計変更が起きた際の手続きについて、着工前にルールを取り決め、発注者、設計者、施工者間で合意し、ルール通りの運用を徹底することです(図表6)。

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図表6:設計変更の手続きと承認ルート

設計変更の提案は、発注者からのみ出るものではなく、実際の工事現場では、設計者からの提案、施工者からの提案も数多く出てきます。そのため、「ルール通りの手続きを踏んでいない設計変更に対する増額請求は認めない」旨を、着工前に周知しておくことも重要です。
一連の設計変更に対する手続きは、後の段階で言った言わないという水掛け論にならないよう、必ず「書面での手続き」とすることが重要です。

二つ目の対策は、増減管理表の運用です(図表7)。

7.jpg図表7:増減管理表

工事段階での設計変更について、変更内容と発意者、金額、承認状態を一元的に可視化し、既契約の工事金額からの増減金額について、毎回の定例会議で必ず確認する機会を設けることをお勧めします。
合計金額は発注者に請求される金額を示しています。工事が進むと変更できる範囲も狭くなるため、追加を抑えるためには、工事の早い段階で、専門家や設計者、施工者に減額案を募り、早めに減額対策を取ることが重要です。

4.その他、工事段階で大切なこと

①安全と品質の担保

学校は、児童生徒学生が1日の3分の1もの多くの時間を過ごす場所です。そのため、居住性は勿論ですが、特に学齢に応じた安全対策をきちんととることが重要です。

例えば、鉄骨階段等の鉄部材の端部やコンクリート柱出隅部の面取り、ぶつかりが懸念される場所へのコーナーガードの設置、窓からの転落防止対策、外壁タイルの剥落防止対策と定期点検の実施、屋上や薬品保管庫、エレベーター等のセキュリティ対策の徹底等が挙げられます。運営中の学校で居ながら工事*(注2)を行う場合には、工事エリアの完全分離や警備員の配置、工事騒音の対策を適切にとる必要があります。

*(注2)居ながら工事:改修工事等を行う場合に、建物を使用している状態で工事を行うこと

②近隣住民への配慮

都市計画上の用途地域の制限から、多くの学校は住宅地に建設されます。そしてその多くは、地域の児童生徒学生を対象としています。学校は地域と共生し成長する施設であるため、周辺住民への配慮が不可欠です。

工事に際しては、着工前の住民説明を丁寧に行い、工事開始後も、必要に応じ、適切な対応していくことが、近隣住民と良好な関係を保ち、学校を発展させていく上で重要となってきます。低騒音の重機の採用や、特にスクールゾーンでの工事車両の通行時間の制限、学校側・建設会社側双方に近隣住民対応担当者を配置する等、状況に応じた対策が必要です。

これらは、建設工事費の中の現場管理費及び一般管理費のコストアップ要因に繋がるため、建設会社との契約前に、近隣対応について具体的な必要条件を建設会社に伝え、工事着手後の増額請求が起きないよう事前の対策が必要です。

③各種検査への十分な対応

建物完成間際には、多くの検査が立て込みます。発注者検査、建築確認検査、条例関連検査、消防検査、厨房やプールの保健所検査、国公立の学校の場合は文部科学省の国庫補助金の検査等もあります。

発注者側で最も重要な検査は、建物完成時に行う発注者検査です。完成した建物を確認し、品質上、運用上の不具合がないか、これまで要望してきた建物になっているかを、発注者の目線で確認する検査です。

よくある建物完成時の不具合は、階段・吹抜の手摺強度不足による手摺のぐらつきや、ペンキや壁紙の剥がれ、給排水管からの水漏れ、排水トラップ不具合による臭気の逆流、空調機器の不具合等があります。瑕疵担保期間を過ぎてからの不具合発覚となると、発注者側で費用を負担する必要があるため、専門家を入れ、素人ではわかりにくい技術的・品質的な不具合を竣工時に確認し、指摘・是正することが重要です。

また、国庫補助を受ける学校は、施設台帳や壁芯図を完成建物と正確に整合し、文部科学省へ申請する必要があるため、設計者や施工者に協力を仰ぎ、検査書類の準備を早めにスタートすることをお勧めします。

④物価上昇への備え

昨今、世界的な環境意識の高まりや社会情勢の変化から、物価上昇が続いています。様々な資材から構成される建物は、物価上昇の影響を大きく受けます。そのため、建設会社と工事契約を交わす際は、物価スライドの条項を取り決めておくことが大切です。物価変動に対する取り決めを行わずに工事着手すると、建設会社の言い値での増額請求に太刀打ちすることが難しくなります。

経済状況が不透明な昨今では、予算内で建物を完成させるためには、物価上昇に備えて設計段階でコスト削減しておくことや、予算の中に予備費を担保しておく備えが重要です。

開設準備段階でのポイント

1.開設準備段階のポイント

工事が終わり、建設会社から建物の引き渡しを受けた後は、いよいよ建物の供用を開始するための開設準備段階に入ります。この開設準備段階は、凡そ1ヵ月程度を要します。開設準備段階でのポイントを以下に解説します。

①竣工式典・内覧会の実施

学校の建設は、教職員や児童生徒学生をはじめ、自治体関係者や近隣住民に至るまで、多くの方々の協力と期待の中に実現しています。そのため、建物が完成した際は、竣工式典や内覧会を実施し、完成を祝い、建物をお披露目する機会を持つことが大切です。

竣工式典の日取りは、開催の3ヶ月程度前には目途を立て、招待する方々への連絡を開始しましょう。年度を跨ぐ場合は、招待客の人事異動等にも配慮し、余裕を持った対応が必要です。内覧会に際しては、案内経路を事前に決定したり、パンフレットの作成も必要になるため、設計者や施工者の協力を得ながら、早めに準備に取り掛かることをお勧めします。

式典やパンフレット等の費用の負担については、工事発注時に工事費に含むか、別立てとするかを決定し、工事発注仕様書の中に定めましょう。

②発注者工事の実施、引越し

建設会社から建物の引き渡しを受けた後は、電話やLAN、AV設備、機械警備等、建設会社の工事に含まなかった工事(以下、発注者工事)の実施と什器備品の納入を行います。電話やLAN、AV設備、機械警備等の配管は建設会社の工事に含むため、工事期間中から建設会社と発注者工事業者で調整を行っておく必要があります。発注者工事の実施時には、建設会社の立ち合いが必要な場面も多いため、発注者工事の実施日と建設会社の立ち合い日を事前に擦り合わせておきましょう。

引越しは、供用開始の半年ほど前から準備を開始するとスムーズです。既存の学校から移転するもの、新規購入するものを段階的に整理し、移転物について教職員だけでは労力が足りない場合は、引越し業者の手配も有効です。その際、引越し業者に依頼することと、自前で行うことのすみ分けをきちんと行い、無理・無駄の無い計画を立てることが、経費の削減とスムーズな開設に繋がります。

③供用開始前の建物使い方説明会の実施

建物を供用開始するにあたっては、建物を実際に管理運用する教職員や、建物で学ぶ児童生徒学生が、建物の使い方を熟知しておく必要があります。
学校施設全体の設計コンセプトや各諸室の設計コンセプトにはじまり、施設の様々なつくりにはどのような意図があるのか、空調換気設備や照明の操作方法、災害時の対応などについて、竣工直後に教職員や児童生徒学生に説明会を実施することをお勧めします。設計者や施工者に参加いただくと、より効果的でしょう。

また、継続的に有効に建物を管理運用していくためには、教職員の異動や児童生徒学生の入れ替わりにも対応していく必要があります。そのために、施設のコンセプトや使い方、設備機器の操作方法など細かなことについて、誰が見ても理解できる「建物の使い方マニュアル」を整備しておくことをお勧めします。マニュアルの整備にあたっては、設計、施工の発注時に、設計者、施工者の業務範囲に含めることで、具体的且つ効果的なマニュアルの整備に繋がります。

2.今後の建物運用にあたっての準備

①長期修繕計画の立案

施設保有の長期的なコスト削減と建替えに伴う環境負荷低減のため、建物の長寿命化が重要な時代となりました。昨今では、改修サイクルを20年程度、4改修サイクル程度での建替えを想定し、建物の耐用年数を80年程度に設定する事例も多くなってきています。

建物の竣工時に、実際に建設を行った建設会社に長期修繕計画の立案を依頼し、今後の建物修繕のスケジュールと費用の見通しを立てておくことで、竣工後の建物を効率よく運用することをお勧めします。竣工時から修繕計画を立てるのは時期尚早という捉え方もありますが、竣工時から今後の運用を理解することで、普段の使い方に工夫が生まれ、運用コストの節約に大きくつながります。

②一元的なデータ管理の準備

建物を計画的且つ無駄なく保全していくためには、施設を管理する担当者が変わっても、同じように建物を管理できるシステムが必要です。

建物に修繕を加えたら、その都度、建物の図面、CAD*(注3)データを最新版に更新しておくことで、建物の最新状態がわからないという事態を防ぐことができます。また、建物別の施設保全台帳を整備し、修繕履歴と修繕費用の経過を都度残しておくことも重要です。これらは、一定のスパンで長期修繕計画と照らし、長期修繕計画の過不足を補正していくことも大切です。

*(注3)CAD(Computer Aided Design):設計や製図を支援するシステムソフト

まとめ

今回は、建設事業の終盤である工事段階と開設準備段階において、建設コストの適正化とプロセスの透明性を担保するために重要なポイントを解説しました。

工事段階での重要ポイント

  • 設計変更ルールの構築と関係者間での共通認識
  • 増減管理表の運用による追加費用の可視化
  • 安全と品質の担保

開設準備段階での重要ポイント

  • 目前の供用開始に際しての準備
  • 建物のライフサイクルを見通した長期修繕計画の立案
  • 一元的なデータ管理の準備

これまで、第1回の基本計画段階から第5回の工事・開設準備段階まで、全5回に渡る寄稿を通して、「施設整備における建物の機能と建設コストの適正化」と「プロセスの透明性の担保」のための手法を述べてきました。

建物の機能と建設コストの適正化のためには、コストインパクトが大きい建設事業の序盤の基本計画段階や発注方式検討段階で、様々な角度から事業を検証し、適切な基本計画の立案と発注方式を決定することが重要です。

設計段階では、基本計画から大きなブレが起きないよう、継続的にコスト管理を行いながら詳細な仕様を決定していくこと、工事段階では設計変更による増額が起きないよう、増減金額を継続的に可視化し管理すること、開設準備段階では、その後の建物のライフサイクル全体を見据えた長期修繕計画の立案と一元的なデータ管理の準備が大切です。

(完)


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