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病院建設

病院のBCP運用と建築計画~災害時における事業継続性を見直そう~

※2021.8.23 第2回改訂(2017.12.4公開)

近年地球温暖化に伴い、台風による強風雨や洪水による自然災害が以前に比べ頻発し、その被害も大きくなっているように思います。言うまでもない事ですが、病院こそ災害に強い建物でなければなりません。

今回は2005年に策定されたBCPガイドライン「事業継続」という考え方に基づいて、病院の災害時における計画の見直しポイントを整理していきます。

BCPとはBusiness Continuity Planの略で、災害や事故など不測の事態を想定して、事業継続の視点から対応策をまとめたものとされています。

事業継続計画(じぎょうけいぞくけいかく、英語: Business continuity planning, BCP)とは、災害などの緊急事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画。事業継続と復旧計画(Business Continuity & Resiliency Planning, BCRP)とも呼ばれる。

Wikipedia事業継続計画より引用

災害地域情報を確認する

地域のハザードマップを確認する

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電力、ガス、給水などのライフラインが機能しなければ、医療行為を継続できません。

災害時にもライフラインを確保し医療行為を継続するために、どのような対策を講じるか検討するためには、先ず病院を建設する地域において、災害時にどのような被害をどれくらい受ける可能性があるかを知る必要があります

そして近年、災害時の被害状況を想定する手段として、ハザードマップが注目されています。自然災害と対策についての報道などで耳にする機会も増えていると思いますので、ご存知の方も多いと思います。

ハザードマップは、国や自治体が、自然災害による被害を予測し、その被害の内容を地図化したものです。
ハザードマップポータルサイト(国土交通省 国土地理院)

その地図から、災害時、各ライフラインにどのような被害が出そうか、水害が起きた時に 何mまで浸水するのかなど、予測される災害時の状況を確認することができます。

地域に残る痕跡を確認する

洪水の危険性が高い地域では、過去にも洪水が起こっていることがよくあります。

病院の敷地に立って、周りを見渡してみてください。例えば敷地の前の道路にある電柱や塀に、看板や塗料で過去の洪水高さが記されているかもしれません。
普段、なかなか目に入らないものですが、洪水多発地域では、意外に見つけられるものです。

このような情報は、場合によってはハザードマップと同等かそれ以上に有益なものといえます。なぜならば、それは「その場所での実測データ」だからです。

ハザードマップに記載されている水位の高さは、例えば「洪水の水位は3m」と記載されているとしても、実際にはどの高さから3mなのかは曖昧です。病院建物を計画する際には、「今の土地の高さから50cm高くする」、「今の病院の床レベルから30cm高くする」など非常に具体的な高さ設定が必要になります。
一方、ハザードマップでは、緩やかな坂道があるような地域で、坂の上と下が1m以上違っていても、その地域全体の「洪水の水位は3m」となります。
よってその高さは目安ということになってしまいます。

地域に残されているデータは、正にその場所で実際に起こった洪水の高さであり、ハザードマップのデータと合わせて参考とすると、非常に意味のある情報となるのです。

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災害時の運用と建築計画

災害規模に応じた災害対策本部の想定

災害時の想定で大切なことは、「建物をどう守るか」の前に「災害時にどのような運用を行うか」を想定することであり、その運用を実現させるための建物を計画することです。特に災害対策本部については、災害規模に応じて設置場所を想定しておく必要があります。

大規模災害時には、運び込まれる被災者や担当するスタッフの状況をリアルタイムに把握し、入院患者のケアを行い、犯罪行為を防ぎ、対応するスタッフを守り休ませ、物資の備蓄状況を把握しつつ必要な量を必要な場所に供給する必要があります。
災害対策本部は人と物の集積場所になるほか、衛星電話や監視カメラモニター、テレビなどの外部・内部の各種情報設備を利用できる情報の集積点となる必要があるため、大規模な掲示板や画面が必要になるかもしれません。
対策班を組織して、各班のミーティングを行うこともあるでしょう。災害時物資の展開と必要物品のピックアップを行うこともあり、それらに必要な大空間の想定が必要になります。

このため大規模災害時の災害対策本部は、大会議室や講堂などに設定されることが多くなります。そこで問題になるのが、大会議室や講堂はどの場所に設置するかです。

平常時にセミナーや勉強会が開催されることも多い大会議室や講堂は、一般の方が入りやすい位置にする場合があります。
災害時には混乱を防ぐため、災害対策本部は一般の方の目に触れない位置とすることもあります。そのため大会議室や講堂に、災害時には閉め切れる扉を設けるなどセキュリティ計画を行い、災害時用の適切な動線計画を行う必要があります。

災害備蓄倉庫と容積除外

災害時用の備蓄を行う際には、その量を正確に把握し必要な面積を設ける事が大切です。具体的な備蓄量設定のためには、患者の受け入れ人数・それに対処するスタッフの人数の想定と、どのような物品が必要になるかをあらかじめ決定します。
ところで、実はこの備蓄倉庫は「容積率算定のための床面積には算入しなくてよい」という建築基準法の改正が、平成24年に行われたことをご存じでしょうか。
法律上、容積率いっぱいの建物を設計していたとしても、「備蓄倉庫」と、「蓄電池設置部分」「貯水槽設置部分」については設置が可能になります。

建築設備での対策

設備仕様を確認する

病院での対策で、一番に思い起こされるのは建築設備への対応です。しかしこの建築設備への対応も、災害時に必要なエネルギー量を設定してはじめて計画が可能になります。そのため、災害時にどのような対応を行うのかを具体的に設定し、何人に対して、あるいは建物のどの部分にどのようなエネルギーを供給するのかを決める必要があります。
この際不可欠となるのが、同規模で災害時に担う機能が似ている病院が、どのような設定と対策を行っているのかという情報です。様々な場で是非情報を収集していただきたいです。

電気設備

停電時に電力を賄うためには、非常用発電機が必要になります。
この非常用発電機を計画する上で重要なことは、例えば『ハザードマップで予測された水害の高さ以上の場所に、発電機が設置されているか』ということです。設置場所は、予め十分に検討する必要があります。

他にも、『ハザードマップで予測された 停電日数の期間中、災害時医療が行えるだけの発電燃料を搭載しているか』などが挙げられます。

非常用電源についてはこちらでも解説しています 北海道胆振東部地震から見る、病院の非常用電源の確保について

給水・排水設備

災害時の水の確保と、その水を排水する設備もまた重要です。

病院の場合、上水は一旦「受水槽」というタンクに貯められ、そこからポンプで水を圧送する「加圧給水方式」という給水方式が一般的です。
受水槽が水害の想定水位以上の場所にあることはもちろん重要ですが、見落としがちなのが圧送するポンプ設備と、ポンプを動かすための電源供給設備です。これらの設備もまた、水害の想定水位以上の場所に設置しておかなければ、非常時に水が出なくなってしまいます。

また、災害時には公共下水道が使用不可能になることも考えられます。
2019年の豪雨時にも、各地で下水道から汚水が逆流してしまう現象が起こりました。この対策については各自治体や省庁も呼びかけを行っています。

例えば、国土交通省が公開している「家庭で役立つ防災」という資料が分かり易く、一般家庭のみでなく、企業や医療機関での防災にも役立つ情報がまとめられています。

病院建物においては、災害時には直接公共下水道に排水するのではなく、建物内に一時的に汚水を貯留する施設(汚水貯留槽)を設置することで、災害時の排水対策を行うケースが増えています。

熱源設備

熱源設備というのは、エアコンや給湯・給蒸を行う上で、必要な熱を発生させる設備です。

ポイントは一次エネルギーを何にするかです。簡単に言うと、電気を使うのか、ガスを使うのか、石油を使うのかです。
東日本大震災においては、ガス設備の中でも「※中圧ガス」についてはガス供給が強かった一方、地域によっては「※低圧ガス」の復旧が遅れた場所や、逆に電気の復旧が遅れた地域もありました。

石油については、供給網の寸断で再供給が遅れた地域もあります。地域のエネルギー供給会社の実績などから、比較検討の上で設定する必要があります。

※中圧ガスと低圧ガスの違いについては右記をご参照ください一般社団法人 日本ガス協会

災害時に必要な容量を設定する

非常用発電機でも、排水貯留槽でも、熱源設備でも同じなのですが、「災害時に設備を動かせるようにする」のと同じ位大切なポイントとして「災害時、どの設備をどの位の期間動かすのか」を検討するという項目を忘れてはいけません

病院には、災害時にも絶対に止まってはいけない部分があります。また、医療を提供し続けるために、動かなければならない設備もあります。
具体的には、手術室、換気設備や空調設備の一部、医療機器、エレベーターの一部、集中治療室、中央材料部門の滅菌機など...他にも多数あります。

災害発生時、病院が地域の中でどのような役割を果たすのかによって、平時と比べて100%の機能を保持しなければならないのか、あるいは災害時に生かす部門を限定できるのかを判断する必要があります
当然ですが、生かす部門が多ければ多いほど、初期費用も維持費用も莫大なコストがかかります。

病棟の照明は何%生かすのか、放射線検査機器はどれだけ稼働しなければならないのか、どのエレベーターを生かすのか、災害対策本部はどこに設置するのか、外来の廊下にはそのための医ガス設備はなくてもよいのか...
災害時の病院の姿を明確にしながら、一つ一つの設備の必要性を具体的に検討する必要があります。

重要な医療機器を守る

病院には、緊急時にも稼働しなければならず、かつ高額な医療機器が多数存在します。
特に設置する高さを検討することが多いのは、MRIやCTといった画像診断機器や医療情報が詰まったサーバーです。

これらの機器を守る為、2階に画像診断部門を設けることもあります。その時も、平時の外来動線が長くなってしまってはいけませんので、平時の動線と災害時の動線や被害を想定した上で慎重に計画する必要があります。

病院建物全体の構造や設置高さでの対策

病院建物の設置高さ

豪雨時にも病院が浸水しないようにするために、建物が建つ地面の高さ自体を上げてしまう方法もあります。
土地を造成する方法で、「盛土(もりど)」といいます。

この方法を使用すれば、設備の項目で述べた様々な設備の設置高さ問題を、一気に解決することができます。ただし、気を付けなければならないのは、患者さんの車の寄り付きや車椅子の患者さんにとって、使いやすい傾斜で地面を上げなければならないことです。

あまりに盛土をし過ぎると、患者さんはスロープを通って病院入口までこなければならなくなります。急過ぎるスロープは、それを使用する患者さんの事故につながりますので、どのような高さ計画・動線計画とするか慎重に検討する必要があります。

また、既存建物との関係も重要です。既存建物と新棟を渡り廊下で繋ぐとしても、高さが異なればスロープとなります。
車椅子・ストレッチャー・配膳車・台車など、病院では様々な手段で搬送を行っています。
それらを考慮すると、急な勾配のスロープは許容できません。何がどの頻度で通るのかを想定し、建物自体の高さを設定する必要があります。

病院建物の構造計画

病院での地震対策で真っ先に思いつくのは、やはり免震構造でしょう。
特に病院では、ベッドや医療機器など重要かつ重量があり、固定されていない器具が多い為、地震の揺れ自体がゆっくりと(周期が長く)なる免震構造は適しているといえます。

免震構造についてはこちらで詳細に説明をしています 免震偽装!?"予想外のトラブル"にもゆるがない建築計画を!

重要度係数

免震装置がない建物でも重要なポイントがあります。実は建築の構造設計の中では、「重要度係数」というものを設定しています。

「重要度係数」とは、「建築基準法上に必要な構造耐力の何倍の耐力を持たせるか」を決めるものです。
例えば最重要な建物は「Ⅰ類」に分類され、重要度係数は1.5すなわち通常の建物の1.5倍の強さを持っていることになります。分類は「Ⅱ類」(重要度係数1.25)と「Ⅲ類」(重要度係数1.0)が存在します。

全ての病院は、当然重要施設であり、災害時においても一定以上の役割を、地域の中で担うことになります。しかし、例えⅢ類の建物でも、大震災クラスの地震が来てただちに倒壊することはありません。災害拠点病院ではほぼⅠ類だと思われますが、Ⅱ類やⅢ類の病院も存在しています。
この設定は、建設コストに直結します。分類を上げることで上昇する金額は数億円であることもよくあることです。災害時に担う役割などを明確にしながら、適切な重要度係数を設定する必要があります。

自院の役割・所在地域の特性を理解し、BCP計画を立てる

災害時の状態を確認せずに、予測する被害を過剰に設定したまま計画を進めてしまうとコストがかさんでしまいます。逆に不足すると事業が継続できないという最悪の事態に陥ります。

ハザードマップを確認し、災害時に病院のライフラインがどのような状態になるかをしっかり想定した上で、災害時に必要な設備仕様を決定する、あるいは地面の高さや重要機器の設置高さを検討する。建物の構造自体を検討する。このステップを踏むことで、コストと品質のバランスがとれた病院が実現できるのです。

プラスPMでは、BCPを計画するうえで検討すべきポイントや、病院事業を継続するための最適な設備計画をアドバイスすることが可能です。また、たくさんの病院支援実績から、同機能・同規模病院でのBCP計画の情報を用いてご提案することも可能です。
新病院の建設において、BCPをお考えであれば、是非一度ご相談下さい。


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