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※2020.7.13更新(2020.5.22公開)
病院の統廃合・合併はこれまでもありましたが、今後はそれが民間病院だけではなく、公立・公的病院でも加速していくものと考えられます。
これを受け、今回は「今後、公立・公的病院の統合再編はどのように進んでいくのか」、翻って「民間の病院はどうなっていくのか」の2つの観点で解説していきます。
2014年に成立した「医療介護総合確保推進法」によって「地域医療構想」が制度化されました。その目的は限りある医療資源の効率的な運用と、年々増え続ける医療費の抑制です。
同制度は、2025年をマイルストーンとして、病床の地域偏在状況や、その地域に余剰または不足する機能を明らかにすることで、適切な医療提供体制構築を目指しています。
結果、多くの地域で病床数や医療規模の縮小が必要となることが明らかになり、2020年現在においても、目標に対し削減の進捗は順調とは言えない状況となっています。
そうした中で、公立・公的病院440弱の病院に対して「再編統合について特に議論が必要」とする分析が、病院名入りで厚生労働省より発表されました。
行政からの強制力を発揮しやすい公立・公的病院に対し、統合や再編、規模縮小等をある程度強硬に行っていく姿勢を民間病院も含めた医療業界全体に周知した形になりました。
下記統計によると、日本は他国と比べ人口に対する病床数、病院数が多いといえます。また、年間1兆円ずつ増え続けてきた医療費は、今年度では42.6兆円。人口減少で多少緩やかになったとしても、今後もしばらくこの水準が続くものと試算されています。
医療費削減の解決策として病院の数を減らし、医療費に占める割合が高い入院費を縮小するため病床数を削減しようとする厚労省の姿勢は、今後も変わることはないでしょう。
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日本の病院の特徴は、「全国一律な医療サービス」を提供する傾向があるために、個々の病院が多くの診療部門を備えていることです。特に公的病院では、「地域医療の受け皿であるのだから、不採算部門になりがちな診療科でも続けていかなければならない」という姿勢をとり続けています。
結果、公的病院のほとんどは自治体からの赤字補填で支えられており、その総額は年間8,000億円にのぼります。
予防医療の拡大や、医療から介護への転換等、医療費を削減すべく多くの施策が行われてきましたが、ここにきて「全国一律な医療サービス」が限界にきているのではないでしょうか。
病院の縮小、もしくは統廃合による移転は、長くその地域で安心・安全な医療を享受してきた地域住民へ不安を与えます。
結果、病院移転は丁寧な住民説明が必要となり計画が遅延、もしくは中止となるケースが見られます。
また、移転先となる地域の既存病院は自院から患者がとられるのではないかとの危機感もあります。
地域医療構想の目的である医療連携を強化して、中核病院、地域の病院、患者の3者が利益を享受できる計画とすることが円滑な計画の進捗には重要となり、計画初期から情報を発信し地域への理解を得ることが肝心です。
距離のある病院の統合により、通院距離が遠くなり、患者が通えなくなるという懸念があります。
公共交通機関が少ない山間部やへき地はもともと病院への距離も遠く、合併により通院距離がより長くなる場合もあります。
その対策として、各地域の診療所とのネットワークを強化できる新病院整備をすることで、地域連携の強化を計ったり、WEB診療や在宅医療の拠点となるような仕組み作りを行ったりすることが重要です。
高速インターネットの導入によって、患者と医療スタッフ間、地域の医師間の連携強化を図ることや、キャッシュレス決済・薬の郵送などによって在宅医療を強化することも必要となるでしょう。
病院が減るということは医療圏としてのバランスを崩すことにもつながります。周囲地域のニーズだけでなく、より広い医療圏でのニーズを考慮した上で、病院統合を検証する必要があります。
これまでの病院再編は規模縮小を伴う統合となったり、通い慣れた病院がなくなったりすることから、患者サービスの低下や緊急時の対応能力の低下への不安感がぬぐい切れず、医療関係者だけでなく、一般の人々からの反対もありました。
ただ、病院機能の集約がもたらすのは、医療費の削減だけではありません。医療・介護一体の改革を行うこと、効率的に地域のリソースを使えるようになることは、長い目で見れば地域の医療環境にとってプラスに働きます。
病院再編の結果、
といったプラスの効果を実現することもできます。
地域包括ケアシステムの重要な機能を、地域の病院は担っています。地域の課題を解決できる病院として適切に再編されることは、結果的に住民が住み慣れた地域において継続して生活できることにつながります。
今後も医療施設全体の病床数削減は、官民問わず進んでいきます。その中で、公費や補助が必要な赤字状態の公立・公的病院が存在していると、収益性の高い病院、もしくは代替えの利かない医療機関のみ残し、民間病院と競合する公立・公的病院の病床数が、削減の対象と軽量化なってしまう可能性があります。
しかし一方で、公立・公的病院は地域医療の受け皿として不採算部門の診療科でもある程度続けていかなければなりません。
こうした中、公立・公的病院は今後どのようになっていくのでしょうか。
一つは、今後の再編は個別の病院機能のみで計画されるのではなく、その地域全体での役割を考慮した上で計画されていくことになっていくのではないかと思われます。 「病院がやりたいこと」から、「必要とされていること」を具体化するハコとしての公立・公的病院となっていくのです。
極端な例かもしれませんが、公的病院は施術後の入院初期、もしくは地域の病院では対応困難な末期の患者を受け入れるためだけの病院となるかもしれません。
2020年の診療報酬改定において、400床以上の大規模病院では地域包括ケア病棟は新設できなくなっていることからも予測されるように、今後更にポストアキュートの病床は削減され、地域の中・小規模病院へ患者さんを受け渡す機能が求められるようになるでしょう。
外来機能も地域でよりニーズの高い診療科に特化したもののみが残り、診療科も、今のようにすべての患者を受け入れるというものから、必要度の高い診療科だけが残り、軽量化されていくと考えます。包括医療費支払い制度方式(DPC)が入院期間中の治療のみならず、外来診察にも適応されていく可能性もあります。
高額医療機器も地域開放されることで、地域で必要とされるものだけに集約されていくかもしれません。
病院の運営面でも変化が必要になるでしょう。病院規模が小さくなる中で統合をする場合、民間医療機関による運営をおこなうケースも多くなるかもしれません。
昨今の統合・再編をみると公設民営の病院の割合が増えてきています。
法人にて地域に複数のグループ病院を持っている場合、地域のニーズも把握しやすく、病院と病院の連携もスムーズに行えます。また、各病院で診療科に特色をもたせることも可能です。
1990年代以降、50床未満の病院はその数を3割程度減らしており、今後大きく数を減らすことは難しいと思われます。そのため、2025年までに13万床の削減が必要とする政府目標を達成するためには、官民を問わず大規模病院の病床数の削減が急務となっており、再編が今後も続いていくでしょう。
補助金についても、稼働病床数ベースで1割以上の削減を行った病院に対し「将来、当該病床を稼働させていれば得られたであろう利益」の補助を全額国費で行うという制度に変更され、2020年度予算に計上されました。従来の制度と異なり、病床削減に特化した財政支援となり、国の本気度がうかがえます。
結果、経営主体の変更と合わせ、病床数を減らした再編が加速していくと考えられます。
<再編による主な効果>
地域の中核病院として役割を担ってきた市立川西病院(235床)と医療法人協和会の協立病院(313床)を統合、新たに川西市立総合医療センター(400床)を公設民営病院として建設する事業計画です。現在プラスPMが支援を行い、計画進行中です。
民間病院は、他院との差別化を図り患者確保を行う必要があります。中でも大規模民間病院は、より一層強みを活かし、以下のような方針で進むのではないかと考えます。
更に、収益性を指標とした医療機能の取捨選択も進むでしょう。
5疾病5事業は2020年の診療報酬見直しでも診療報酬の増要素がありました。重症度や看護度要件を満たすことが可能な病院は、これらに特化して経営の安定を図っていくのではないでしょうか。
機能分化、専門性の強化は地域ニーズによります。
民間病院も統合再編する公立・公的病院との連携、住分けをこれまで以上に強く意識する必要があるかもしれません。また、国の方針も踏襲した運営方針としておくことも、病院経営には重要です。
2020年度診療報酬改定で、地域包括ケア病棟入院料の施設基準・算定要件は厳しくなっています。
地域包括ケア病棟を有する許可病床数が400床以上の病院について、入院患者のうち、一般病棟から転棟した患者の割合が6割以上である場合の入院料を見直すとし、地域の病院からの受け入れが増えるように誘導しています。また、自宅からの入院患者の割合も増やしています。
これは地域包括ケア病棟の本来意図するところである「入院、退院、在宅復帰を通じて切れ目ないサービス提供」を個別の病院へ頼ることなく、地域で包括していこうという表れです。
などに対応するため、病院の規模も含め変化させていかなければならない時代です。
求められる機能を把握し、再編と合わせ今後地域の中の病院として運営していくための見極めが必要となるでしょう。
中小規模民間病院は、大規模病院で治療を行った患者の在宅復帰までの中間期の患者の受け入れ、診療所からの入院患者の受け入れなどといった役割が、今後は求められるのではないでしょうか。
可能な限り住み慣れた地域で安⼼して暮らせるよう、地域密着型サービスを行うとする地域包括ケアの役割です。
病床機能報告制度によると、高度急性期・急性期病床が全体の約7割となっており、回復期や慢性期病床を増やしたい厚労省の狙いと乖離しているのが現状です。
背景には、過去、急性期病床が不足した時期に、厚生労働省が「急性期が利益のでる報酬制度」としたことで急性期病床が増加したことが考えられます。
したがって、医療スタッフには急性期病院として数多くの救急患者の受け入れを行ってきた自負のあるスタッフが多く、急性期患者の受け入れを取り止めることでモチベーションが低下してしまうことへの懸念があるといわれています。
また、最新の医療技術取得を目的とする医療スタッフも多く、「スタッフ採用が難しくなるのでは?」という危惧もあるでしょう。
しかし、診療点数の高い看護配置7対1病床の算定要件も厳格化されるなど、急性期を標榜する病院であっても、多くの病院では要件を満たすことが年々厳しくなってきています。
回復期の患者の受け入れ先が不足している現状では、急性期病院の診療報酬上の要件は、今後も厳格化が続くのではないかと予測されます。
今後、患者の高齢化に伴い、急性期への対応より慢性期や回復期の患者の受け入れ先としての機能が求められると考えます。
背景には、一定期間以上の入院期間になると診療報酬が低くなってしまうように診療報酬が変化しているという現実があります。今後、一般的な急性期病院では、退院に時間がかかり且つ経過を見守る必要がある患者は、同病院の回復期病棟等で対応することになるでしょう。
よって、一般急性期病院は、今後は回復期病床の充実が求められると考えます。
また、昨今増加している高齢者や慢性疾患の患者は、退院まで日数はある程度必要ですが、特殊な対応は必要ありません。
そうしたニーズに対応する病棟として、地域包括ケア病棟、もしくは慢性期応の病棟があり、今後はそれらの病棟を充実することが、医療資源の効率的な活用につながり、また総体としての医療費全体の削減につながると考えます。
急性期病院を標榜する場合は、「軽度急性期・急性期後入院」「回復期入院」といった入院機能は維持しつつ、外来機能においても病―病連携を担う病院としての役割を模索することが必要になるでしょう。
一方で、慢性期病院とする場合は、どのように多様化する医療へ対応するか検討が必要になります。
例えば「重症な患者を受け入れていくのか、在宅サービスとの連携を強化して、在宅復帰機能及び在宅療養支援機能を強化していくのか」といった選択肢もありますし、「介護医療院等への介護施設サービスへ転換を図り、「住まい」の機能を果たしていく」という選択肢もあり得ます。
そして前記したように病院を維持していくためには、医療スタッフのモチベーション確保も重要です。
地域包括ケア病棟で働く医師には以下のようなアピールが可能です。
地域包括ケア病棟の設置は、地域のニーズがあれば、介護や訪問などへの展開ができ、収益につながります。
急性期の病床数に固執せずに、割合を決めて院内再編を行えば、慢性期病院とせずとも経営を安定させることが可能です。また、急性期維持のための収益の安定という意味では、外来機能の絞り込みや減床、病棟毎に病床数の適正化を図ることも有効と思われます。
例えば、急性期を維持するための病床再編例として次のような事例があります。
1.老健・病院を別敷地、別建物で運営 ⇒ 病院・老健・保育所が一敷地に集約
【効果】
2.低層の病院、クリニック、透析施設が近接設置 ⇒ 積層し、一建物に集約
【効果】
2025年以降も医療費全体の削減と医療スタッフの働き方改革は急がれていくことになるでしょう。一方で、医療・通信に関係する新技術開発やインフラ整備はこれから益々進んでいきます。
新病院建設は、経営の合理化と働き方改革、新技術の導入を行う絶好の機会であり、むしろそれらが建設プロジェクトの目的にもなると考えます。
病院再編についても今後進んでいくことでしょう。ただし、地域ニーズによって再編の仕方も多様化していきます。選択肢は多く、最も適切なものを選ぶことが肝要になります。
病院再編は2025年以降も見据え、課題を解決するための一つのツールになると確信しています。
今後、生き残る病院となるためには、地域のニーズの把握と、病院側が行いたい医療ではなく"地域に求められている医療"を行っていくことが重要です。
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